サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
オールアズワン
【2010年 札幌2歳ステークス】すべての思いがひとつになった若き日の栄光
30年以上に及ぶ調教師生活で、JRA通算806勝(うち重賞を20勝)を量産した領家政蔵師。馬を見る目の確かさと持ち前のバイタリティーを武器に、引退が迫ってからもリーディングの上位を賑わせた。ワンダーパヒューム(桜花賞)を手掛けて以来、牡馬クラシック制覇を大目標に掲げていたなか、オールアズワンも大きな希望を託した一頭だった。
供用初年度のアンライバルド(皐月賞)、ロジユニヴァース(ダービー)に続き、ヴィクトワールピサ(ドバイワールドC、有馬記念、皐月賞)を送り出したネオユニヴァースの3世代目。母トウホープログレス(2勝)は、2世代しか産駒を残せなかったナリタブライアンを父に持つ貴重な繁殖である。トレーナーも若駒当時より確かな非凡なポテンシャルを感じ取っていたという。
「生まれた直後に出会い、ひと目で気に入った。当時はちょっと馬体が薄かったけど、整ったバランスをしていてね。ヤマダステーブルでの育成も順調に進み、2歳7月に函館競馬場へ。気がいいタイプだけに、当初から反応は上々だった。すぐにゲート試験に受かったし、調整に苦労はなかったよ」
8月の札幌、芝1500m(2着)でデビュー。メンバー中で最速の上がり(3ハロン34秒9)を繰り出し、クランプリボス(後に朝日杯FS、NHKマイルC)に半馬身まで詰め寄った。敗れたとはいえ、むしろ自信を深める内容だった。
「そう攻めていなかったので、まだふわふわした感じも残っていた。それでいて、追ってからは体勢が低くなり、トモの蹴りがすばらしい。どちらかといえば硬めに映るちょこちょこした歩様なのに、いざとなればフォームが伸びるんだ。心肺機能も優秀。豊富なスタミナだって見込んでいたしね」
距離を延ばし、芝1800mをあっさり抜け出す。2着に3馬身半差。しかも、同開催の2歳戦では次位を1秒も凌ぐ最速のタイムを叩き出している。
「札幌2歳Sに備え、現地に残して丁寧に走り方を教え込んだ。本来はとても賢い馬。馬込みも苦にしなくなり、完成度の高さには自信を持っていたよ。抽選をクリアした時点で、勝負になると思ったなぁ」
その見立て通り、持てる資質をフルに発揮する。外枠からスムーズに中団の外目を追走すると、勝負どころでも楽な手応えで進出。早めに先頭に立ち、追いすがるアヴェンチュラ(秋華賞、エリザベス女王杯2着)以下を危なげなく完封した。
1か月ほどの放牧を挟んだ後、ラジオNIKKEI杯2歳Sへ。道中で力んだぶん、ゴール前で甘くなったとはいえ、わずかクビ差の2着。体重が10キロ増え、順調な成長がうかがえた。
ところが、弥生賞(8着)で思わぬ挫折を味わう。返し馬からテンションが上がり、前半から行きたがった。気持ちの修正が利かず、皐月賞は16着に敗退。大逃げを打ったダービーも8着に沈んだ。
懸命な立て直しにもかかわらず、心身の歯車は狂ったまま。領家師が引退するまで連敗を重ねる。6歳春より加用正厩舎に移籍のうえ、現役を続けた。障害戦へ転向後、5戦目で待望の勝利。6月の中京ではオープンでも勝ち鞍をプラスする。京都ジャンプSでも5着に健闘。7歳シーズンまで無事に40戦を走り抜け、乗馬へと転身した。
手にしたタイトルは札幌2歳Sのみに終わったとはいえ、馬づくりのベテランも、その魅力に心を弾ませたオールアズワン。人と馬の思いをひとつに結集された若き日の栄光が忘れられない。