サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

エイシンブルズアイ

【2016年 オーシャンステークス】春陽に照らされた標的を射抜くシャープな矢

 入厩して1か月余りで、2歳11月に迎えた新馬(京都の芝1600m)を快勝したエイシンブルズアイ。昇級2戦目にして白梅賞を楽々と逃げ切る。アーリントンCは7着に敗れたものの、毎日杯でハナ差の2着に健闘。NHKマイルC(13着)へも駒を進めた。

  父ベルグラヴィアはミスターグリーリーの後継だが、産駒は希少であり、唯一、日本に渡ったのが同馬。祖母パドルジャンプがG3・フロリダオークスを2着したとはいえ、母ミスフィアファクター(その父サイフォン)は未勝利に終わった。地味なファミリーといえる。OBSスプリングセールに上場され、17万ドルで落札された。

「公開調教(2ハロン20秒4の好タイムをマーク)でのシャープなフットワークに惹かれました。アメリカンらしくない薄手のスタイル。日本の芝に合うと想像したんです。輸入後も体がしぼむことはなく、岡山の栄進牧場で順調に乗り込まれましたが、トレーニングセール出身でも、決して早熟ではありません。真面目で扱いやすいですし、やれば動くとはいえ、体質は繊細。脚元などに負担をかけすぎないよう、慎重に仕上げました」
 と、野中賢二調教師は若駒当時を振り返る。

「一瞬の脚は一級品でも、使いどころが難しい。それに、鼻出血の兆候もあったんです。にじんだ程度の症状が1回あっただけでも、不可解な負けを喫したときは、潜在的な不安が影響したと思われます」

 キーンランドC(5着)以降、スプリント戦に照準を定める。オパールS(2着)、京洛S(4着)を経て、淀短距離Sで3勝目をマークした。シルクロードSは9着に敗退したが、9か月のリフレッシュ休養が実を結び、コンスタントに出走できる下地ができた。桂川Sを勝ち切り、再びオープンへ昇格。京阪杯(5着)に続き、マイルに戻した京都金杯(6着)、洛陽S(2着)でも崩れず、地力強化をうかがわせる。

 ブルズアイとは、標的の中心に大当たりすること。ついに重賞のターゲットを射抜いたのがオーシャンSだった。後続も息が入らない逃げに持ち込んだハクサンムーン(1馬身半差の2着)を目がけ、鋭く矢が放たれる。後方一気の鮮やかな逆転劇だった。

「復帰後しばらくは筋肉痛なども抱えていましたが、それも無事に乗り越え、しっかり鍛えられるように。ぐっとたくましくなり、ようやく中身が詰まってきた手応えがありましたね。石橋脩騎手があえて控えてくれたのが功を奏し、最適なパターンに持ち込めました。それにしても、あれほどの爆発力を発揮するとは」

 展開的に不向きな高速馬場となった高松宮記念(5着)でも、上位勢を凌ぐ差し脚を駆使。しかし、徐々にバイタルさが失われてしまい、無念の8連敗を喫する。6歳時のラピスラズリS(5着)がラストラン。地方競馬に移籍した。

「結局、オーシャンSがピークでしたが、非凡な才能は十分に示しています。馬が発するシグナルを見逃さないよう、試行錯誤してきたなか、こちらも多くのことを学びましたよ。生涯忘れられない一頭です」