サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アヴェンチュラ
【2011年 秋華賞】華々しく才能を開花させた秋の大冒険
ノーザンファーム早来での育成時より大物との評価を受けていたアヴェンチュラ。母アドマイヤサンデー(その父サンデーサイレンス、3勝)にジャングルポケットが配された魅力の血筋である。父との相性の良さは、全兄にあたるフサイチホウオー(東京スポーツ杯2歳S、共同通信杯)や全姉のトールポピー(阪神ジュベナイルF、オークス)で証明済み。キャロットクラブの募集総額は5000万円だった。
2歳6月には早くもターフに登場。阪神の新馬(芝1600m)で3馬身半差の楽勝を収める。札幌2歳Sも出遅れながら2着に健闘。阪神JFは4着に終わったとはいえ、ゲート内でじっとせず、スローな流れを直線だけで追い込んだ結果だった。
ただし、このレースで右ヒザを剥離骨折。残念なアクシデントではあったが、休養を経ても才能が色あせることはなかった。7か月の沈黙を打ち破り、漁火Sを2馬身半差で快勝する。プラス28キロの体重は、この間の順調な成長を物語るもの。レース運びもぐっと安定味を増した。
勢いに乗り、クイーンSも正攻法で制覇した。2ハロン目から11秒台が5つも続く息が入らない流れを勝ちにいき、いったん先頭を譲りながら、ゴール前で驚異の二枚腰を発揮。着差(クビ)以上に強さが際立つパフォーマンスである。秋華賞へと夢が広がる内容に、角居勝彦調教師はこう笑みを浮かべた。
「もともと能力はトップクラス。ジャングルポケットの特徴が出ていて頭が高い走法だけに、背腰に疲れがたまりやすかったのですが、2歳時と比べると明らかにパワーアップしましたね。このファミリーは気持ちのコントロールがポイント。トールポピーは自らやめてしまうようになり、オークス以降、未勝利に終わりました。調教では悪さをすることもなく、一貫していい動きを見せていたのに。ただ、この仔の場合、イメージに反して馬群でも我慢が利き、しっかり脚を伸ばせるのが心強い点ですよ。テンションが上がりやすいタイプであっても、精神的に大人になり、ぐんと落ち着きを増しています」
兄姉たちとは歩みが異なり、キャリア5戦のフレッシュな状態で胸がときめく秋へ。成熟期に過酷な戦いで消耗しなかったぶん、伸びる余地もたっぷり残されていた。トップレーナーの緻密な方策に導かれ、いよいよ頂上へ向けてのアヴェンチュラ(イタリア語で冒険)が始まった。
秋華賞は、機動力も要求される京都の内回り。好枠の4番を引き、すっとインの3番手をキープする。速めのペースでも行きたがる面を見せたが、強気に直線手前から進出。それでも、あっさりと後続を突き放してゴールに飛び込んだ。初めて手綱を取った岩田康誠騎手は、興奮気味に才能を称える。
「前へ行っても止まらない乾いた馬場。力を信じて、ポジションを取りにいったんだ。ちょうどいい展開になり、思い描いた競馬ができたね。こちらの指示に従順で、とても乗りやすい。挑戦者として自ら動いたが、最後までしっかりと伸びた。すごい馬だよ。ここにきて充実しているし、この先も大きなタイトルを狙える」
続くエリザベス女王杯はスノーフェアリーの豪脚に屈したものの、クビ差の2着に踏み止まった。だが、両前の第3手根骨を骨折していたことが判明。再仕上げの過程でも古傷を傷め、結局、復帰はかなわなかった。
短すぎる競走生活ではあっても、底知れないポテンシャルを示したアヴェンチュラ。いまのところ、JRAで勝ち上がった産駒はカイザーライン(1勝)、サファル(1勝)のみだが、果敢なチャレンジスピリットを受け継いだ逸材の出現を待ちたい。