サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

エーシントップ

【2013年 シンザン記念】天才少年が繰り出す驚異のスピード

 キーンランド社のセプテンバーセールにて、40万ドルで購買されたエーシントップ。父テイルオブザキャットは、ライオンハート(ハリウッドフューチュリティなど米G1を2勝)らダートの一流馬だけでなく、ジオポンティ(アーリントンミリオンなどG1を7勝)などターフランナーも輩出した。母エコロジー(その父アンブライドルズソング)が未勝利でも、同馬の半兄にオールウェザー(ブルーグラスS)と芝(WRターフクラシック)でG1勝ちしたジェネラルクウォーターズがいる。

「本格的な乗り込みが始まる前、栄進牧場の久世育成センターで初対面したときの衝撃が忘れられない。幅があってすごい迫力。それでいて、つなぎが柔らかく、重々しい感じがないんだ。眺めれば、まったく飽きがこない。こんな馬がいるのかと感心させられた」
 と、西園正都調教師は若駒当時を振り返る。

 育成時より完成度は抜けていた。5月に入厩すると、あっという間に出走態勢が整う。

「普段は素直で大人しい。調整に苦労はなかったよ。そのうえ、いざとなれば即座にスイッチが入り、楽々とスピードに乗ってしまう。デビュー前の最終追い切りは坂路で51秒0、ラストも12秒3。化け物だと思ったね」

 6月の阪神、芝1400mを危なげなく逃げ切る。中京2歳Sは折り合いを欠き、コーナーでも外へふくれる若さをのぞかせながら、粘り強くトップを守り通した。

「アメリカ産でもトレーニングセール出身ではないし、3か月半、間隔を開けたことで、心身ともに成長。京王杯2歳Sは5番人気だったけど、やれる手応えがあったよ。上がりの速い展開となっても、2番手から33秒6の脚を使って快勝。レースレコードでの決着となり、持ち前の強靭さも生かせたね」

 無敗のままで迎えた朝日杯FSは8着。「口を割ったところで下げてしまったのが裏目に。キャリアの浅さが出て、全力を出し切れなかった」のが敗因である。

 汚名返上に燃え、陣営はシンザン記念へのエントリーを決めた。前半3ハロンが34秒6という速いラップを刻みながら、堂々と押し切る。クビ差の辛勝でも中身の濃い勝利といえた。

「ベストパフォーマンスがニュージーランドT。3番手で抑えが利き、リズムに乗って運べた。ゴール前で遊ぶ面を見せたけれど、馬体を併せて渋太く伸びたもの。あんなレースができれば、G1に手が届くと自信を深めたよ。ただ、だんだんペースに応じて折り合えない弱点が際立ってきた。あり余るスピードのコントロールが難しくて。結局、以降はマックスの能力を発揮できなかった。跨った誰もが絶賛する乗り味を考えれば、隠された引き出しがたくさん残されていたはずなのに」

 NHKマイルC(8着)、安田記念(17着)と、大目標では厚い壁に跳ね返される。秋緒戦のスワンSも12着に後退。ダートに目を向け、霜月Sに勝利したものの、フェブラリーS(16着)まで3連敗を喫する。高松宮記念(4着)ではタフな不良馬場を味方によく逃げ粘ったが、以降は闘志が空回りし、失速を繰り返す。5歳のカペラS(15着)がラストランとなった。

 種牡馬としては結果を残せず、鹿児島で静かに余生を送っているエーシントップ。それでも、驚異のスピードで他馬を翻弄した青春期の雄姿は、いまでも若々しいエネルギーを伴って鮮明に蘇ってくる。