サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
エフティマイア
【2007年 新潟2歳ステークス】明るい未来を切り拓く前向きな心
2008年2月の定年までに、JRA通算532勝(うち重賞36勝)を挙げ、競馬史に偉大な足跡を刻んだ矢野進調教師(本年2月に逝去)。最後に手がけた重賞ウイナーがエフティマイアである。
長きに渡り、様々なカテゴリーへトップホースを送ったフジキセキが父。母カツラドライバー(その父ニホンピロウイナー)は未勝利だが、祖母のノーザンマイヤ(4勝)、曽祖母マイヤ(G1・亜オークス、同・サンイシドロ大賞などアルゼンチンの重賞を5勝)へと連なる優秀な牝系であり、馬づくりのベテランも出会った当初より大きな期待を寄せていた。
仕上りは早く、2歳6月の福島(芝1200m)で新馬勝ち。5馬身もの差を広げた。マリーゴールド賞も危なげなく突破。新潟2歳Sに駒を進める。
ここでもレースセンスの良さを存分に発揮。スローの好位をスムーズに折り合い、早めに抜け出しながら、最後まで勢いは衰えず、1馬身半のリードを保ったまま、悠々とゴールを駆け抜けた。
「牝とは思えないほど落ち着いている。若駒同士の戦いだから、窮屈になりたくはなく、前々で運んだ。楽な勝ち方ができたよ。ほんと真面目で一生懸命。距離延長や相手強化も関係なかったね」
と、蛯名正義騎手は満足そうに愛馬を称えた。
ところが、京王杯2歳S(13着)、阪神JF(17着)、フェアリーS(5着)、菜の花賞(6着)、クイーンC(6着)と意外な伸び悩み。体力的にへこたれた様子などうかがえず、一貫して調教では動けていた。実戦で力を出し切ってないことが明らかだった。
矢野師の引退に伴い、新規開業を迎えた鹿戸雄一厩舎へ。再び闘志に火が点く契機となる。いきなり初年度にジャパンC(スクリーンヒーロー)を勝ち取るなど、華々しくスタートを切ったトレーナーは、こうエフティマイアとの巡り会いに感謝する。
「厩舎をスタートさせた直後、あの馬がもたらしてくれた経験は貴重でした。たくさんのことを学びましたよ。それをスクリーンヒーローへ生かすことができた。いまでも礎となっていて、エフフォーリア(皐月賞、天皇賞・秋、有馬記念)へもつながっています。桜花賞(2着)、オークス(2着)に向けては、気候が暖かくなり、柔らか味を取り戻したのが大きかったですし、リラックさせるよう、工夫した結果、喜んで馬運車に乗り込むくらい前向きになりましたね」
クラシックでは15番人気、13番人気を覆す大健闘。陣営に勇気や希望を運ぶ。以降も大切にキャリアを重ねたものの、クイーンS(5着)や秋華賞(5着)はあと一歩の内容。エリザベス女王杯(13着)でヒザを剥離骨折する不運に見舞われる。翌夏の朱鷺S(3着)より再スタートしたが、再度の骨折があり、5歳時の関屋記念(14着)まで歩んだところで繁殖入りが決まった。
エフティスパークル (3勝) 、エフティイーリス(2勝)らに続く、活躍馬の登場が待たれる。きっと豪華に名牝の系譜を発展させていくに違いない。