サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

エピファネイア

【2013年 菊花賞】名牝ならではの資質をフルに引き出した余りある闘志

 2年連続で年度代表馬に選出されたシンボリクリスエス。サクセスブロッケン(フェブラリーSなどG1級を3勝)、ストロングリターン(安田記念)、アルフレード(朝日杯FS)ら、数々の大物を輩出してきたなかでも、唯一のクラシックホースとなり、日本最高峰のジャパンCでもワンサイド勝ちを演じたのがエピファネイアだった。

 母シーザリオ(その父スペシャルウィーク)はオークスを勝っただけでなく、アメリカンオークスでもG1制覇を成し遂げた名牝である。祖母のキロフプリミエールもG3・ラトガーズBCHの優勝馬。同馬の半弟にあたるリオンディーズ(朝日杯FS)、サートゥルナーリア(ホープフルS、皐月賞)もG1ウイナーとなった。

 総額6000万円の値が付けられ、キャロットクラブの募集馬となったエピファネイア。ノーザンファーム早来での育成時も豊富な体力を誇り、気持ちも前向きだった。

「シーザリオはすばらしい馬でした。この仔はタイプが違い、パワーがある。ときにありすぎるくらいです。そんな個性がどっちにころぶか、ずっと予断なりませんでしたが、ポテンシャルは超一流。母の才能をしっかり受け継いでいましたね」
 と、管理した角居勝彦調教師は振り返る。

 当初より秋シーズンのデビューを目指していたが、暑さが和らぐのを待ち、栗東へ移動。短期間でゲート試験に合格すると、順調に時計をマークする。10月の京都(芝1800m)でデビューし、3馬身差の圧勝を収めた。

 京都2歳Sも、楽々と差し切る。ラジオNIKKEI杯2歳Sでは初重賞制覇を成し遂げ、不動のクラシック候補に踊り出た。

 ただし、弥生賞(4着)で初の挫折を経験。道中でかかったのが敗因だった。それでも、コントロール面に課題を残しながら、皐月賞、ダービーと連続の2着。

「いずれも最後の最後に交わされたもの。勝てる力があるのに、この馬の余りある闘志をフルに生かせなかった」
 と、福永祐一騎手は唇を噛みしめた。以降も調教から跨り、馬とのコミュニケーションを図ることに心を砕いていく。

 ダービー馬のキズナが凱旋門賞への挑戦で不在となったなか、ぜひとも結果を残したかった秋シーズン。神戸新聞杯より再スタートを切り、2馬身半差の快勝を収める。さらに距離が延びても好位をリズム良く運べ、菊花賞は独壇場となった。単勝1・6倍の断然人気に応え、後続を5馬身も置き去りにする。

 福永ジョッキーも、安堵の笑みを浮かべる。
「返し馬でも落ち着きを保ち、抜群のスタート。馬込みに入れなくてもリラックスできた。こういう馬場状態(不良)だから、前も止まらないと思い、早めに仕掛けた。ほんと手ごわい馬だったのに、完璧な内容だったね。春は乗りこなせず、すべてを取り返せたわけではないけど、うれしくてならないよ」

 4歳時は大阪杯(3着)、クイーンエリザベス2世C(4着)と歩む。課題の折り合い面に不安がなくなった反面、同馬らしい勝負根性が影を潜めた印象も受けた。天皇賞・秋は逆に燃えすぎ、6着に敗退する。

 だが、ジャパンCで鮮やかな変わり身。道中は力んでいたが、坂下では早々と抜け出し、4馬身も差を広げた。初めて手綱を取ったクリストフ・スミヨン騎手も、「日本ではいろいろすばらしい馬と出会ったが、エピファネイアが一番強い」と驚きの表情で話した。

 有馬記念は5着だったものの、先頭との差はコンマ2秒。翌春にはドバイワールドCに挑む。初のダートに戸惑い、9着に終わった。さらなる前進は必至に思われたが、宝塚記念を目指しての調教中、左前に繋靱帯炎を発症。スタリオン入りが決まった。

「まだまだ奥があると感じていながらの引退。残念でなりません。ただし、再発のリスクを伴う病ですし、種牡馬としての可能性を考えれば、無理はさせられない。自身を越えるスーパーホースの登場を待っています」
 とエールを送った角居調教師の期待に応え、父らしい爆発力とともに、母のしなやかさも産駒へと伝え、優秀な勝ち上がり率を誇る。大舞台にも強く、デアリングタクト(牝馬3冠)、エフフォーリア(皐月賞、天皇賞・秋)、有馬記念)、ダノンデサイル(日本ダービー、ドバイシーマクラシック)、ステレンボッシュ(桜花賞)をはじめ、続々と逸材を送り出している。新たなスターの登場が楽しみでならない。