サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

エピセアローム

【2012年 セントウルステークス】電撃のスプリントに放たれたフレッシュな芳香

 新馬戦が開幕したばかりの6月、阪神の芝1600m(2着)でデビューしたエピセアローム。クビ差だけ及ばなかったものの、勝負どころで外へ逃げ気味になる若さを見せながら、メンバー中で最速の上がり(3ハロン34秒7)を駆使していた。3着以下は4馬身も引き離している。持ち乗りで手がけた桑村光史調教助手は、出会った当初より確かな能力を感じ取っていた。

「ノーザンファーム早来でしっか乗り込まれてきましたし、入厩した当初より身体の完成度は高かったですね。2歳らしく常に元気があり、前向きすぎるくらいの性格。ただし、走るフォームに安定味があり、とても乗りやすいんです。環境の変化に少しイライラしたとはいえ、教えたことをきちんと理解する賢さも自慢ですよ。早々とゲート試験をパス。無理なく目標のレースに間に合いました」

 ダイワメジャーのファーストクロップ。サンデーサイレンスの後継ながら、2年連続してJRA賞・最優秀短距離馬に選出されたスピード色が強い遺伝子である。同期のカレンブラックヒル(NHKマイルC)らに先駆け、産駒の初重賞を勝ち取ったのが同馬だった。

 母ラタフィア(その父コジーン)も石坂正厩舎で走り、5勝をマーク。同ステーブルの先輩には半兄のラターシュ(4勝)、エクセルサス(3勝)もいる。祖母サクラファビュラスがサクラローレルの半姉にあたる底力を秘めた血筋だ。

「母は500キロ以上の大柄で、パワフルな先行力が持ち味でした。この仔は中サイズの好バランス。やはりスピードがあります。兄たちはダート仕様ですが、手脚が軽く、柔らかく、サンデー系らしさも兼ね備えている。両親の長所をバランスよく受け継いでいました」

 翌月の京都(芝1600m)では鮮やかな変貌を遂げる。出遅れた初戦とは違い、抑えたままでハナを奪うと、直線は2着に6馬身も差を広げるワンサイド勝ちを収めた。

「テンションが上がったことに配慮し、2週間くらいNFしがらきへ。その効果があって、2戦目は落ち着きを増しました。前半は我慢が利いたうえ、いざというときに気の強さを発揮する理想的な走り。早速、この馬向きの臨戦過程が確立でき、すべてがうまく噛み合ってきましたよ」

 さらに放牧を挟み、新潟2歳Sを目標に帰厩したのだが、除外の可能性も高かった。小倉2歳Sへと路線変更。それでも、ポテンシャルの違いを見せ付ける。出遅れながらも、ハイペースを楽々と追走し、直線は他を圧倒する勢いで先頭へ。1馬身半差の完勝だった。

 ただし、阪神JFは道中で力んでしまい、8着に敗退。チューリップ賞では2着に巻き返したものの、桜花賞(15着)、オークス(16着)とほろ苦い結果に終わった。

 スプリントがベストと見て、北九州記念より再スタート。メンバー中で最速となる3ハロン33秒7の末脚を爆発させ、3着まで追い上げた。そして、セントウルSへと駒を進める。

 待ち構えていたのは、この路線でチャンピオンの地位を固めつつあったロードカナロア。単勝6番人気に甘んじた。それでも、すっと好位をキープすると、手応え良く直線に向く。じりじりとロードカナロアとの差を縮め、ぐいと出たところがゴールだった。騎乗した武豊騎手も、こう満足げに声を弾ませる。

「内目の4番枠を引いたので、道中はあまり置かれないように注意した。ちょうどいいポジション。3コーナーで前に入られても、道中のリズムは良かったね。ラストは強い馬が粘っていて、交わせるかどうか半信半疑だったけど、手応え通りにきっちり交わしてくれた。着差はアタマだったが、真っ向勝負で勝ち取った価値ある勝利。トップクラスの能力は疑いようがない」

 スプリンターズSでも4着まで差を詰める。だが、以降は4歳時のオパールSに勝ったのみ。身体的にパワーアップされた反面、操縦性に難しさを増していく。5歳になり、CBC賞(2着)やセントウルS(3着)であと一歩に迫りながら、3つ目のタイトルには手が届かなかった。京阪杯(4着)を走り終えたところで、余力を残して繁殖入りした。

 どんどん枝葉を広げる一族にあって、新たな才能のスパイスが加えられたエピセアローム(フランス語でスパイシーな香りの意)。繁殖としても輝かしい栄光をつかむに違いない。シトラスノート(3勝)、バルサムノート(4勝)に続く逸材の登場を楽しみに待っている。