サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
エクセラントカーヴ
【2013年 京成杯オータムハンデ】次世代へと夢をつなぐ卓越した才能の貯蔵庫
社台ファームで順調に基礎固めされ、2歳9月、美浦の堀宜行厩舎へ移動したエクセラントカーヴ。短期間でゲート試験をパスしたが、丁寧に手順を踏むステーブルらしく、山元トレセンに戻って心身を整え、11月に帰厩する。精神面が繊細であり、飼い食いの細さも課題だったものの、当時より華奢なスタイルに反した力強いフットワークが光っていた。
馬主を対象に出資を募る社台グループオーナーズ(募集総額2000万円)の所属。カレンブラックヒル(NHKマイルC)をはじめ、5頭の重賞勝ち馬が誕生したダイワメジャーのファーストクロップであり、母インディアナカーヴ(その父エーピーインディ)は5勝をマークした。同馬の兄姉にインディドライバー(2勝)、フローラルカーヴ(アネモネS2着)ら。祖母アンティックオークション(CAN2・スターシュートS)に連なる確実性が高い血脈である。
暮れの中山(芝1600m)であっさり新馬勝ちを果たす。フランス語で「すばらしいワインの地下貯蔵庫」との馬名に違わず、エクセラントなパフォーマンス。騎乗した石橋脩騎手は、こう素質を絶賛した。
「パドックでは暴れてしまい、跨がれないほどでしたが、返し馬で落ち着いてくれましたね。スタートも絶好。ただし、レースを覚えさせたくて控えました。3コーナーで外から動かれても手応えに余裕がありましたし、いざとなってノーステッキで加速。調教でも乗り味の良さを感じていて、イメージどおりの勝ち方ができました。オン・オフの差が激しすぎる面さえクリアできれば、かなり上を目指せますよ」
スローペースを懸命に我慢させ、続くクイーンCも3着に健闘。だが、アネモネS(8着)では一気にテンションが上がってしまい、ゲート再審査の制裁を受けた。以降は精神面に配慮しながら、慎重にローテーションが組まれる。
4か月半の休養を挟み、新潟(芝1400m)で順当に2勝目。位置取りや折り合いに泣かされ、昇級後は4連敗を喫したが、徐々に内面が充実していく。夏向きの牝だけに、4歳シーズンは気温の上昇とともに調子もアップ。4月の東京(芝1600m)を皮切りに、江の島特別、新潟日報賞と連勝を重ね、あっという間にオープン入りしてしまった。
軽さや決め手に磨きがかかり、高速決着は望むところ。京成杯オータムハンデでも持ち味を遺憾なく発揮する。楽な手応えで好位から突き抜けた。
5戦続けて手綱を取り、主戦の座が定着していた戸崎圭太騎手も、満足そうに笑みを浮かべる。
「一戦ごとに成長を感じていました。先行勢とは離れていましたが、折り合いはぴたり。内面の充実が著しく、最近はレースが上手になり、終いも確実ですからね。こちらはリズムを守るのに専念するだけで良かった。すばらしい馬に乗せてもらった結果ですよ」
ところが、レース中に左ヒザを剥離骨折していたことが判明。翌春の中山牝馬S(9着)より再スタートしたが、待望のG1となったヴィクトリアマイル(10着)でも心身は噛み合わないままだった。
直線だけで差を詰め、関屋記念を4着。復調気配を感じさせた。しかし、京成杯AH(15着)は直線で前が詰まる致命的な不利。これで旺盛な闘志が途切れてしまい、マイルCSも12着に敗退する。ここで繁殖入りが決定した。
隠し持ったポテンシャルをフルに示したとはいえないエクセラントカーヴだが、ベストパフォーマンスのインパクトはあまりにも鮮明である。いまのところJRAで勝ち上がった産駒はブルームスベリー(3勝) のみだが、いずれ卓越した才能を受け継いだ大物が登場するに違いない。