サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アイアンルック
【2009年 毎日杯】名将も絶賛した鋼のボディー
全兄にアドマイヤベガ(ダービー)、半弟にもアドマイヤドン(G1を7勝)がいる良血であり、セントライト記念をしたアドマイヤボス。脚元の不安がなければ、G1も狙えるポテンシャルを秘めていたと思われる。繁殖に恵まれず、2010年に種牡馬を引退したが、ダート戦線にクリノスターオー(平安Sなど重賞を3勝)を送り出した。それに先駆け、ターフで将来を嘱望されたのがアイアンルックである。
母ルカダンス(その父ヘクタープロテクター)は不出走だが、祖母がフラワーCを2着し、牡馬相手に皐月賞も5着に健闘したダンスダンスダンス。同馬の半兄にオープンまで出世したエックスダンスがいる。
「育成当時より馬体の良さは抜けていたよ。2歳10月、ノーザンファーム早来から栗東近くのグリーンファーム甲南へ移動。2、3週だけの滞在で入厩の予定が、肩の出にぎこちなさが感じられ、12月に延びたんだ。でも、手元に来た直後には、想像以上のスケールの持ち主だと実感したね」
と、管理した橋口弘次郎調教師は若駒当時を振り返る。
一躍、脚光を浴びたのは、デビュー前の追い切り。絶好の反応を見せ、同期のリーチザクラウン(後にきさらぎ賞、マイラーズCに優勝)に先着した。
「京都の新馬を1頭だけ除外される不運があり、まずは小倉の芝1200mを選んだけど、決して単調なスプリンターだとは思っていなかった。どこへ出しても負けることはないだろうと見ていたんだ」
見立て通り、悠々と抜け出し、2着に7馬身もの差を付けた。中1週でアーリントンCに挑戦させたのも、自信の表れ。出遅れが響き、コンマ2秒差の4着に終わったものの、メンバー中で最速の上がり(3ハロン35秒0)をマークした。
「どんな素質馬でも、2戦目で重賞を射止めるなんて、なかなかできないよ。長い経験のなかでも、ロゼカラー(デイリー杯3歳S)がいるくらい。けれども、それが可能ではないかと思わせた素材だった。実際に、突き抜けていても不思議のない内容。本来はゲートも素直だし、悲観する材料は見当たらなかったね。毎日杯は、今度こそ負けられない気持ちで臨んだよ」
じっくり脚をため、大外から33秒6の豪脚が炸裂。遅れてきた大物は、橋口トレーナーにJRA通算73勝目となるグレードレース優勝の喜びを運んだ。
「無駄なところがなく、バランスがいいから、530キロもの大型には見えない。あれだけの高い身体能力があれば、もっと大きなタイトルに手が届く自信もあった」
ところが、NHKマイルCは、4コーナーで他馬に外へ押し出される大きなロス。8着に敗れた。過酷な不良馬場で行われたダービーでも、早めに手応えをなくして17着まで後退。このレースで右前に屈腱炎を発症してしまった。
2年5か月ものブランクを経て、復帰を果たしたものの、3戦続けて惨敗し、静かにターフを去ったアイアンルック。それでも、迫力にあふれるルックスや強烈なパフォーマンスは、多くのファンの胸にくっきりと焼き付いている。