サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

エクスペディション

【2012年 小倉記念】驚異的な成長力を誇示した真夏の遠征

 社台ファームでの基礎固めを終え、2歳の9月に石坂正厩舎にやってきたエクスペディション。ところが、ゲート試験に合格した矢先、両前のトウ骨に骨膜炎を発症してしまう。暮れには帰厩して出走目前まで進んだが、今度は右前のヒザを剥離骨折。競馬場への初登場は3歳7月(阪神の芝1800m)までずれ込んでしまった。

 それでも、能力は確か。速い調教が不足していたのにもかかわらず、いきなり2着に追い込んだ。続く小倉の芝1800mでは、出遅れながらも初勝利を収める。しかし、左前のソエを痛がるようになり、4か月間のブランクを経る。

 12月の阪神、芝1800mを4着。小倉の芝1800mでも9着に終わったが、背振山特別で3着に前進し、山国川特別を豪快に差し切った。

「手脚が軽い反面、調教では動けなかった馬が、休養効果でだいぶしっかりしてきました。ただ、突然、パニックになったり、精神的には不安定なまま。昇級後の足踏みは、コントロールが利かない面に泣かされたものです」
 と、調教パートナーを務めた古川慎司調教助手は当時の状況を振り返る。

 ここでリフレッシュを図り、一段と充実。紫野特別(2着)、三木特別(2着)と歩んだ後、快進撃が始まった。木屋町特別で7馬身差の圧勝を収めたのを皮切りに、九州スポーツ杯、釜山Sも余裕の3連勝を飾る。

「変貌ぶりに驚くばかり。放牧から戻ってくるたび、めきめき地力強化されていく。いかにもステイゴールド産駒らしい個性です。激しい性格だけでなく、驚異の成長力も父譲りのものでしょうね」

 母ビーモル(その父リファール、仏2勝)は、セリマSで米G1を制したビーミスドの半妹にあたる。コンスタントに活躍馬を送り出す優秀なファミリー。同馬の半兄に北九州記念を2着したツルマルヨカニセ(7勝)などがいる。

 中日新聞杯(4着)、中山金杯(5着)と健闘。その反動が出て、小倉大賞典は10着に終わったが、気温の上昇とともに調子を上げるのが同馬のパターンである。七夕賞も8着だったとはいえ、古川さんはうれしい変化を感じ取っていた。

「だいぶ大人しくなったので、メンコを外してハードに攻めました。ずいぶん乗りやすくなりましたし、だんだん集中力も高まってきた。状態自体はそう変わっていなくても、小倉記念へは気分を損ねることなく、しっかり仕上げられたように思います」

 小回りの忙しいペースのほうが折り合いが付きやすい。勝負どころでも手応えは楽だった。4コーナーから一気にスパート。あっという間に突き抜け、後続を寄せ付けなかった。2馬身半も差を広げ、悠々とゴールに飛び込んだ。

 新潟記念(コンマ1秒差の4着)でもゴール前の攻防に加わり、改めて実力を証明。ハンデが増量された6歳時の小倉記念は6着に敗退したが、鳴尾記念(2着)や新潟記念(2着)での好走も忘れられない。

 7歳シーズンも夏場に照準を定めていたが、右前に屈腱炎を発症。新潟大賞典(11着)がラストランとなった。

 全6勝のうち、小倉で5勝を挙げたコース巧者であり、7、8月の勝利数も5勝まで伸ばしたエクスペディション。2012年の小倉記念は、栄光へのエクスペディション(遠征、探検)を果たすのに最高のステージだった。