サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

エリザベスタワー

【2021年 チューリップ賞】花盛りの仲春に鳴り響く崇高な鐘音

 ドイツのG1・ディアナ賞(独オークス)を制したターフドンナ(その父ドワイエン)に、トップサイアーのキングマンが配されて誕生したエリザベスタワー。重厚なヨーロッパ血統の持込馬であり、500キロを超える大型ながら、社台ファームでの調整が進むにつれ、反応の良さが評判になる。2歳4月に栗東トレセンへ入厩。早々とゲート試験に合格した。

 ただし、立派な外見に反して体質は繊細。山元トレセンに移動後はたびたび熱発があり、右トモに外傷を負うアクシデントにも見舞われ、出走態勢が整うのに時間を要した。それでも、能力は非凡。暮れの新馬(阪神の芝1600m)に臨むと、好位から余裕を持って抜け出す。

「まだ口向きに難しさが残り、調教ではフワフワしがちでした。体幹も定まらずにいたのに、実戦の速いペースならイメージが一変します。続くエルフィンS(9着)は出遅れが響いた結果。後方のポジションとなったうえ、スローに流れましたからね。幸い反動はなく、馬は元気いっぱい。対処が甘かったとの反省のもと、修正に努めました」(高野友和調教師)。

 チューリップ賞へ向けては、メンタルに寄り添って操縦性を高めるとともに、ワンランク負荷を強化。晴れやかな栄光につながった。スタートが改善され、5番手を確保。多少、行きたがる面を見せたものの、川田将雅騎手は巧みに我慢させる。小倉2歳SやファンタジーSに優勝したスピード自慢のメイケイエール(同馬とともに1着同着、後にシルクロードS、京王杯スプリングC、セントウルS)が早めに先頭に立ち、押し切るかと思われたが、根気強く差を詰め、ぴたりと馬体を併せてゴールに飛び込んだ。

 桜花賞への出走権を確保。しかし、晴れ舞台では他馬と接触して力み、コーナーでは左へもたれてエネルギーを消耗した。13着に終わる。スイートピーSも6着と不可解な敗戦を喫したが、休養先の社台ファームに到着後、両前のヒザを剥離骨折していたことが判明した。

 手術を経て、態勢を整え直し、3歳12月には地方主催の交流重賞、クイーン賞で復帰を果たす。だが、気性の激しさを露呈してコントロールが利かず、13着と期待を大きく裏切った。ダートへ駒を進めたのは、脚元への負担を配慮したのも要因だったが、レース中に右前の蹄を傷めていた。4歳シーズンは懸命に立て直しが図られたものの、復帰を目指す調整過程で右前に屈腱炎を発症。早すぎる引退が決まった。

 魅力的な血筋に加え、余力を残して繁殖入りした分も、母として成功する確率は高い。エリザベスタワー(ビッグベンと呼ばれるロンドンの時計塔、エリザベス2世の在位60年を記念して改称)の名にふさわしく、競馬の未来に向けて高々と鐘音を響かせるに違いない。