サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ヴェルデグリーン

【2013年 オールカマー】いつまでも忘れ得ぬエバーグリーンな輝き

 着実なアベレージを誇り、20勝に上るJRA重賞を手にしてきた相沢郁調教師にとっても、格別な思い入れを寄せるのがヴェルデグリーン。こう感慨深げに振り返る。

「爪や心臓など、いろいろ弱点があって出世は遅れましたが、もともと超一流の素質を感じ取っていました。愛着が深い母系だけに、晴れて重賞ウイナーになったときの喜びといったら」

 母レディーダービー(その父スペシャルウィーク)は未勝利に終わったが、開業したばかりの相沢師に初めてのタイトル(京王杯3歳S)をもたらしたうえ、オークスでクラシック勝ちを果たしたウメノファイバーの産駒である。父はジャングルポケット。2代続けてダービー馬が配されて誕生した。

 2歳12月に中山(芝2000m)でターフに初登場。デリケートな心身に配慮して軽めの追い切りを3本しか消化していなかったのにもかかわらず、長く脚を駆使してあっさり抜け出す。若竹賞はアタマ差の2着。5着だったセントポーリア賞にしても、差はコンマ1秒差だった。東日本大震災によって関東圏での競馬が休止されたことに伴い、若葉S(13着)に目標を定め直したものの、阪神への長距離輸送が堪えて大幅に体を減らしてしまう。

 半年間の休養後も3連敗。さらに3か月の間隔を開け、4歳2月の東京(芝1600m)で2勝目をつかんだ。だが、以降の5戦はなかなかレース運びが安定せず、足踏みが続く。

 丁寧な立て直しが実を結び、5歳1月に中山の芝2000mを久々に差し切ると、破竹の快進撃が始まる。調布特別、常総Sも連勝。新潟大賞典は10着に終わったが、中間に蹄のトラブルがあり、決して万全の状態ではなかった。

 しっかり充電され、オールカマーへ。単勝38・9倍の9番人気にすぎなかったが、これまでよりワンランク上の負荷をかけることができた。前半は折り合いに専念。隊列の後ろで息を潜めていたが、3コーナーから進出する。その爆発力は驚異的なものだった。レースのラスト3ハロンを2秒7も凌ぐ33秒6の鋭さで、きっちり交わし去る。痛快なパフォーマンスを引き出した田辺裕信騎手は、こう満面の笑みを浮かべる。

「もともと行きたがる面があったとはいえ、本来は指示に素直な賢い馬。勝負どころで自らハミを取ってくれた時、やれるんじゃないかと意を強くしましたね。ゴールでは思わずガッツポーズ。ずっと乗せてもらい、僕と同じに下積みから叩き上げてきただけに、感激はひとしおです」

 出遅れが響き、天皇賞・秋(8着)や有馬記念(10着)は不完全燃焼。アメリカJCCでも後方の位置取りとなったが、スタートが決まったことで手応え良く追走。大外を豪快にまくって勝負に出た。勢いは最後まで衰えず、ラスト1ハロンで先頭に躍り出る。5着までがコンマ1秒以内にひしめく接戦でも、鮮烈な印象を残す堂々たる勝利だった。

 中山記念でも5着まで追い上げ、さらなる前進が期待された。宝塚記念(12着)を経て、秋の再スタートを目指すことに。ただし、思わぬ悲劇が待ち受けていた。トレセン近郊の放牧先で腸閉塞を発症。美浦の診療所で開腹手術を行ったところ、腸全体に悪性の腫瘍が広がっていた。残念ながら、予後不良となった。

「突然の別れだっただけに、信じられない思い。末期の段階だったことを考えれば、病魔に侵されたのはかなり前でしょうね。我慢強く、ずっと耐えていた。たくさんの勇気を与えられましたよ。馬に感謝するしかありません」(相沢調教師)