サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ウインガニオン
【2017年 中京記念】盛夏に躍動する直向きな勝者
シルポートやハクサンムーンなど、数々のフロントランナーを育ててきた西園正都調教師。ウインガニオンも、非凡なスビートで勝負した個性派だった。
「こんなタイプが大好き。ジョッキー時代は、まずはいいポジションを取るようにと師匠(故・大根田裕也調教師)に教え込まれた。目標にされることも多いが、脚を余すことなく力を出し切れるからね」
ドバイシーマクラシックや香港ヴァーズを制した底力を伝え、種牡馬として大成功したステイゴールドが父。母チャンネルワン(その父ポリッシュネイビー)は地方で未勝利に終わったが、同馬の全兄にシルクメビウス(東海Sなど重賞を3勝、JCダート2着、ジャパンダートダービー2着)がいる。
「ダート色が強い母系でも、もともと父らしい柔軟性に富んでいた。育成先のコスモヴューファームで乗り始めたころは小柄だったし、精神的にも繊細なんだけど、成長力も秘めていたよ。2歳9月に入厩したころから、調教はしっかり動けていたた」
翌月の京都、芝2000mでデビュー。いきなり3着に逃げ粘る。だが、以降は7着、4着、不利を受けて14着と、なかなか成績が安定しなかった。軽度の骨折に見舞われ、半年間のブランク。復帰後に鮮やかな変わり身を見せる。6月の阪神(芝1600m)を2番手から押し切ると、清洲特別も連勝。出遅れながら、大外一気を決める派手な勝ち方だった。
「能力を再認識できたが、問題はテンションの高さだった。引っかかってしまう危うさは相変わらず。いろいろ乗り方を試しても、エネルギーをためられなくて」
昇級後は6連敗を喫する。しかも、4戦が二桁着順。寒い時季は身のこなしに硬さが目立っていたが、降級をきっかけにすっかり立ち直った。国分寺特別でマイペースの逃げ切りを決めると、有松特別も渋太い粘りを見せて連勝。初の準オープンでも勢いは止まらず、新潟日報賞では後続に2馬身半の決定的な差を広げた。
「想像をはるかに超えた快進撃だったね。左回りに良績が集中していても、もともと手前替えはスムーズ。外見が急激に変化したわけでもない。すっとハナに立てれば、自らペースをつくれ、気分良く折り合えるんだ」
信越S(14着)は、競りかけられる厳しい展開。気温の低下とともに調子を落として4連敗したものの、5歳時の谷川岳Sで一変し、鮮やかな逃走劇を演じた。パラダイスSも連勝を飾り、すっかり軌道に乗る。
「じっくり仕上げ直し、いい精神状態をキープ。この馬向きのルーティンが定着した。こうなれば、馬が勝手に体をつくってくれる」
中京記念は2番手に控えるかたちとなったが、逃げたトウショウビストが後続を引き離したため、実質、単騎でハナを進むのと同じリズムを守れた。ラチ沿いをぴったり回り、早めに先頭へ。楽々と後続を突き放した。
馬券のウイン(単勝)は9・0倍の5番人気に甘んじていたとはいえ、2馬身半差の楽勝。会心のパフォーマンスに、津村明秀騎手も満面の笑みを浮かべた。
「結果的に絶好のパターンでした。他のレースでも最内を通った馬が残っていましたので、そこを狙って進出。最後に脚が上がっても、堂々と粘れたように、こちらが期待していたより、何倍も力を付けています」
関屋記念も2着に健闘。だが、その後は張り詰めた精神状態が戻らず、身体面もフレッシュさを欠き、翌夏も淡白な走りが続く。富士S(18着)で競走生活にピリオドを打ち、馬事公苑の乗馬となった。
左回りで7勝したのに加え、2年に渡って3連勝を演じた夏男。はっきりした戦績ゆえ、ウインガニオンが放ったインパクトは強烈だった。ガニオン(フランス語で勝者)との名にふさわしく、栄光へ邁進する姿が忘れられない。