サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ヴァンセンヌ

【2015年 東京新聞杯】たくさんの夢が詰め込まれた才能の花芽

 トモに緩さを抱え、栗東への入厩は3歳3月と遅れたものの、阪神(芝1800m)で迎えた初戦を余裕の手応えで突き抜けたヴァンセンヌ。いきなりディープインパクト産駒らしい瞬発力を見せ付けた。

 ヴァンセンヌとは、花の展示会で知られるパリ郊外の森名。母は高松宮杯(当時)、スプリンターズSを制し、最優秀短距離馬に輝いたフラワーパーク(その父ニホンピロウイナー)である。終了寸前の未勝利戦を勝ち上がった後、頂点まで駆け上がった晩生のスプリンター。同馬も想像以上の奥深さを秘めていた。

 京都新聞杯は12着に敗退したうえ、右前の球節に軽い剥離骨折が認められ、7か月の休養へ。出遅れが響き、鳳来寺山特別こそ12着に終わったが、翌年2月に京都の芝1800mを鮮やかに差し切る。しかし、さらに2戦を消化したところ、右前屈腱に炎症を発症。1年7か月もレースから遠ざかった。

 5歳秋に迎えた復帰緒戦(阪神の芝1800m)はクビ差の2着。ここから一気に素質が開花する。小峰城特別を順当に勝利したのを皮切りに、エクセレントJT、元町Sと3連勝でオープンまで登り詰めた。

 勢いに乗り、東京新聞杯に駒を進める。スタートで外へよれてしまい、気合いを付けたことで行きたがりながら、なんとか中団で我慢が利いた。直線は瞬時に先頭へ躍り出て、後続の追撃をクビ差だけ凌ぎ切る。粗削りなぶんも、さらに夢がふくらむパフォーマンスだった。

「前走も辛勝だったけど、他馬にこすられてビュンと行きながら押し切り、これは底知れないと思わせた。スタートから流れに乗れず、折り合いに苦労したが、前に馬を置いて4コーナーまで脚をためられたからね。直線でスペースが開き、抜け出すのが早すぎたのに、よく踏ん張った。いまだ伸び盛りだし、この先が楽しみだよ」
 と、福永祐一騎手は声を弾ませた。

 京王杯SCはアタマ差の2着だつたものの、メンバー中で最速の上がり(3ハロン32秒7)をマーク。安田記念もラスト33秒7の豪脚を爆発させ、勝ったモーリスをクビ差まで追い詰めた。

 ただし、全力を尽くした反動なのか、毎日王冠(9着)、天皇賞・秋(18着)と精彩を欠いた。マイルCS(14着)がラストラン。屈腱炎の再発が認められ、引退が決まった。

 レックススタッドで種牡馬入り。初年度産駒より中山グランドジャンプを制したイロゴトシが登場。スプリンター部門ではロードベイリーフがオープンで健闘している。父の域に達する新たなスターの出現が待ち遠しい。