サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ファンディーナ
【2017年 フラワーカップ】壮大な夢を運ぶ天才少女
皐月賞は7着に終わったとはいえ、堂々の1番人気に支持されたファンディーナ。正攻法で勝ちに出て、レースレコードの高速決着や牡の厚い壁に阻まれとはいっても、デビューして3か月足らずであり、キャリア4戦で挑んだ舞台だった。
「異例の参戦も、オーナーサイドの期待の表れ。それに応えるべく、こちらもモチベーションを高め、できる限りの努力をしたつもりです。ただし、繊細な面を持ち合わせた牝。レースの直前まで細心の注意を払っていても、秋以降に結果が残せず、馬に申し訳ない気持ちでいっぱいですよ。後悔の念は一生晴れることはないでしょう」
と、高野友和調教師は正直な胸のうちを明かしてくれる。
リーディングのトップを独走するディープインパクトが父。母のドリームオブジェニー(その父ピヴォタル)は不出走ながら、名門の谷川牧場を支える新たな基幹牝系になってほしいと見込まれ、タタソールズのディセンバーセールにて購買された。同馬の従姉にスピンスターSなど、米G1を4勝したイモリエントがいる。曽祖母が仏G1を2勝したクドジェニであり、近親にバゴ、マキアヴェリアンらも名を連ねる優秀なファミリーだ。
「半兄のナムラシングン(3勝)と同様、もともと牧場の自信作。生まれた直後でも、垢抜けた雰囲気でしたし、すくすくと大型に育ちました。兄はゲートに苦労しましたが、2歳9月には入厩して1回で試験をパス。性格も従順ですよ。パワーを兼備していて、調教は無理なく動けるうえ、きちんと折り合えます。本来なら、もっと早くデビューできる状況でも、爪を痛めたのに配慮し、いったん放牧へ。将来を見据え、じっくりとステップを踏みました」
1月の京都(芝1800m)に初登場すると、いきなり衝撃のパフォーマンスを演じる。すっと先手を奪うと、軽く仕掛けただけで9馬身差。つばき賞での勝ち方も秀逸だった。スローの好位から、次位を1秒2も上回るラスト33秒0の鋭さで突き抜ける。
フラワーCは楽な手応えで2番手を進み、直線も馬なりのまま、5馬身も差を広げた。
「練習ではスタートが遅かったのに、センスの良さは想像以上でしたね。レベルが違いすぎたこともあって、気持ちに余裕があり、展開にかかわらず、しっかり脚を使えました。筋肉もりもりになったシングンとはシルエットが異なり、とても伸びやか。あの時点でも、まだ未知な部分が多かったとはいえ、底知れない可能性は疑いようがなかった」
ファンディーナ(タイ語で良い夢を)との名の通り、走るたびに大きな希望を運んだ同馬だったが、能力が高いぶん、身体への反動は大きかった。オークスをパスして、じっくり立て直されたものの、ローズS(6着)、秋華賞(13着)、リゲルS(9着)と歩んだところで、右腰に骨折が確認される。結局、復帰を果たせず、早すぎる引退が決まった。
3つの圧勝劇だけで、規格外のポテンシャルは十分に証明されている。皐月賞で先着を許したのは、アルアイン、ペルシアンナイト、ダンビュライト、クリンチャー、レイデオロ、スワーヴリチャードであり、日本を代表する名馬ばかり。きっと繁殖としても、鮮やかな花を咲かせるに違いない。