サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ブロードストリート
【2009年 ローズステークス】勝利への王道をまっすぐに
ブエナビスタ(桜花賞、オークス、ジャパンCなどG1を6勝)が牽引した2009年の牝馬クラシック戦線。徹底的に馬づくりにこだわるプロ集団、藤原英昭厩舎には、08年にJRA総合リーディングサイアーに立ち、サンデーサイレンスの後継ではエースの座を確保したアグネスタキオンを父に持つ3頭の実力派がいて、虎視眈々と逆転を狙っていた。ジェルミナル(フェアリーS、桜花賞3着、オークス3着)、ワイドサファイア(フローラS2着、ファンタジーS4着)、そして、ブロードストリートのことである。
桜花賞と同じ舞台(12月の阪神)で、楽々と新馬勝ちしたブロードストリート。続く1月の京都(芝1600m)も、次元が違う末脚で連勝を飾る。
藤原調教師は、こうセンスの良さを絶賛していた。
「タキオンらしい垢抜けたスタイルをしていて、当歳時に出会ったころより走る手応えはあったよ。ただ、半兄のフィニステール(3勝、青葉賞3着)は古馬になっても未完成なままだった。奥手と見ていたし、ジェルミナルやワイドサファイアよりあえて遅らせて入厩させたんだ。ただし、馬に合わせて状態を引き上げていこうと思っていたところ、とても仕上げやすく、十分に鍛えていない段階なのに、あっという間に結果も残せた。この時期の牝ならば、勝とうと思っても簡単に勝てないものなのに、レース巧者で自在に動けるからね。一芸が抜けているわけではなく、強烈な個性を感じないけど、欠点が見当たらない」
初の重賞挑戦となったチューリップ賞を4着。正攻法の競馬でジェルミナルに先着した。忘れな草賞(2着)は、出遅れたうえ、相手と見たヒカルアマランサス(後に京都牝馬S、ヴィクトリアマイル2着)をマークしたのも誤算だった。それでも、勝ったデリキットピースを1秒2も凌ぐ34秒9の上がりを駆使している。
スイートピーSを順当に勝利。前半のペースが遅かったため、着差は1馬身余りだったが、レースのラスト34秒5に対し、同馬は33秒8の瞬発力を発揮している。もう後がない状況で最終切符を手にし、中2週でオークスへ。ここでも4着に健闘し、確かなポテンシャルを再認識させた。
夏場のリフレッシュを経て、ローズSより再始動。体重に変化はなくても、ワンランク上の追い切りをこなし、フィジカル面の強化は明かだった。馬群のなかで脚をため、手応え十分に直線へ。前の馬に進路を阻まれるシーンがあったものの、進路が開くと瞬時に加速する。迫るレッドディザイア(秋華賞、オークス2着、マクトゥームチャレンジラウンド3)をクビ差だけ振り切り、念願のタイトル奪取がかなった。
主戦を務めた藤田伸二騎手も、着実な成長を感じ取っていた。
「馬の力を信じて、いつもより前目の位置で運ぶつもりだった。最後にレッドディザイアがきているのはわかっていたけど、こちらも余力があったからね。想像どおりの脚だったよ。春当時と比較しても、トモがしっかりして、いい筋肉が備わってきた。この状態を維持できれば、次のG1でも期待できる」
秋華賞(2着)はスタートが決まらず、4コーナーではブエナビスタ(2位入線も3着に降着)に進路をカットされる不利。「立て直してから盛り返したのを見ればわかるよ。スムーズなら突き抜けていた」と、藤田ジョッキーは悔やんだ。
全力を尽くした反動は大きく、結局、エリザベス女王杯(6着)以降は未勝利に終わったとはいえ、ヴィクトリアマイル(5着)、愛知杯(2着)、マーメイドS(2着)、愛知杯(2着)などで見せ場をつくった。6歳時の中山牝馬S(7着)がラストラン。生まれ故郷の下河辺牧場に戻り、繁殖入りした。
いまのところ、サトノウィザード(5勝、富士S2着)が産駒の代表格。非凡なポテンシャルを受け継いだ新たなスターの登場が待ち遠しい。