サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ファインチョイス

【2011年 函館2歳ステークス】熟達した相馬眼にかなった最後のファインホース

 独自の相馬眼を駆使し、数々の優駿を発掘した領家政蔵調教師。33年もの長きキャリアのなか、桜花賞(ワンダーパヒューム)、朝日杯FS(セイウンワンダー)をはじめ、通算20勝のJRA重賞を手にしたが、最後となる傑作がファインチョイス。まさに「ファインチョイス」と呼べる一頭だった。

 馬づくりのベテランは、同馬との出会いをこう振り返る。
「当歳時にひと目で即決した。とても品があり、軽さやバネが伝わってきたからね」

 強靭な末脚を武器に、ドバイューティーフリー、宝塚記念、ジャパンCなどを制したアドマイヤムーンのファーストクロップ。母アフレタータ(その父タイキシャトル)は先行力が持ち味であり、芝1200mを3勝、ダート1700mで1勝をマークしている。

「イメージどおりに成長。ヤマダステーブルでの育成が進むと他馬が付いてこられないくらいだった。函館競馬場に移動してからも手がかからず、あっという間に出走態勢が整ったよ」

 7月の函館、芝1200mを3馬身差で楽勝。中1週となる函館2歳Sも、まったく危なげのない内容。ステッキを使わずに好位より抜け出す。入厩してわずか1か月半でのスピード出世だった。

「1戦させたら、栗東に連れて帰るつもりだったが、デビュー戦を走り終えた岩田くん(康誠騎手)は『ステークスもいけます』って第一声。とりあえず登録して慎重に状態を見極めても、疲れなどうかがえなかった。テンションが上がるのを案じていたのに、使ってからのほうが落ち着いているくらいだったしね」

 目一杯の仕上げを施していなかったのにもかかわらず、世代最初の重賞を手にできたアドバンテージは大きく、クラシックへの夢がふくらんだ。ところが、ファンタジーS(3着)以降は11連敗を喫してしまう。4歳にして早熟のイメージが定着してしまった。

「身体能力の高さは疑いようがない。調教では無理せずに好タイムが出る。普段は素直で大人しく、とびきりの優等生でね。ただ、実戦ではあり余るスピードを上手にコントロールできないんだ。ずいぶん歯がゆい思いをしたなぁ」

 ただし、デビュー時に430キロ台だった体重が460キロに増え、ぐんとボリュームアップ。降級したのをきっかけに、すっかりリズムを取り戻す。2年ぶりとなる函館のHTB杯を鮮やかに抜け出した。TVh杯では全弟にあたるアットウィル(4勝)とのワン・ツー。姉の貫録を示す1馬身半差の快勝だった。

 UHB賞はクビ差の2着に敗れたものの、勝ち馬はストレイトガール(後にヴィクトリアマイル2回、スプリンターズS)だった。ここまで同コースでは5戦4勝、2着が1走という無類の巧者ぶり。同年は函館で施行されたキーンランドCへと期待が高まった。しかし、息が入らず、13着に後退。余力を残したまま、繁殖入りすることとなった。

 母のアフレタータは馬運車の交通事故によって亡くなってしまったが、同乗していた最後の産駒が奇跡的に無事だった。それがキャンディバローズ(ファンタジーSなど2勝、フィリーズレビュー3着)。半妹の活躍により、繁殖としての価値はさらに上昇した。いまのところ、産駒の代表格はプロミシングスター(3勝)。いずれファインチョイスに追い付き、追い越すファインホースが登場しても不思議はないだろう。