サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ダノンシャーク

【2014年 マイルチャンピオンシップ】惜敗を糧に研ぎ澄まされた鬼才の爪牙

 ディープインパクトのファーストクロップであり、セレクトセール(当歳)にて3000万円で落札されたダノンシャーク。大久保龍志調教師は、こう若駒当時を振り返る。

「オーナーの依頼を受けた1歳時より、父らしい軽さが魅力。身のこなしがとても柔らかく、秘めた瞬発力が伝わってきました。ソエが出ることもなく、下河辺牧場での育成も順調に進行。ただし、蹄が薄く、2歳夏の入厩当初からエクイロックス(釘を使わない接着装蹄)を採用していたほどです。デビューへ向けては慎重にペースアップしましたね」

 母カーラパワー(その父カーリアン)はイギリスに生まれ、フランスで2勝した。どんな種牡馬でも堅実に走る繁殖であり、同馬の姉兄にターキー(3勝)、ワキノパワー(3勝)、スティルゴールド(4勝)ら。ターコイズSなど5勝をマークしたレイカーラ(インターミッションの母)は半妹にあたる。凱旋門賞などG1を6勝し、仏チャンピオンサイアーとなったモンジューもこのファミリーの一員だ。

 10月のデビュー戦(阪神の芝1800m)をクビ差の2着と健闘。その後の2戦も連続して2着し、年明けの京都(芝1800m)で順当に初勝利を収める。つばき賞もあっさり突破。3歳春のオープンでは、若葉S(3着)、ニュージーランドT(7着)、プリンシパルS(4着)とひと息の成績に終わったが、大崩れしなかったあたりは確かな才能の証左である。

「もともと一流のスピードはあったのに、引っかかる気性が問題。馬房では大人しいのですが、スイッチの入り方が極端なんです。エネルギーがあり余り、跳ねて、跳ねて。なだめるのに苦労していました。ジョッキーが苦労して我慢を教え込んでくれたことが、徐々に実を結んできましたよ」

 4か月ぶりとなった甲東特別をきっちり差し切ると、清水S(3着)でも出遅れる不利を跳ね除けて、レースのラスト3ハロンを1秒2も上回る33秒6の決め手を繰り出した。逆瀬川Sではスムーズに2番手を進み、余裕たっぷりに抜け出す。京都金杯(2着)の内容も濃い。後方から大外を回し、メンバー中で最速となる34秒1の上がりをマークした。

「馬場が硬くなる厳寒期は、爪が敏感になりがち。どう過ごすかがポイントです。それでも、体調維持は楽なタイプ。いい筋肉が備わり、だいぶボリュームアップしてきました」

 だが、4歳時はマイラーズC(2着)、エプソムC(2着)をはじめ、あと一歩で勝ち切れないレースが続く。それでも、不利を受けたマイルCS(6着)を除けば、すべて掲示板に載っている。

 5歳シーズンを迎え、ついにタイトルを奪取する。京都金杯はコースロスなくインを立ち回り、一気に突き抜ける危なげないパフォーマンス。2馬身半も差を広げた。マイラーズC(半馬身+アタマ差の3着)をステップに安田記念に臨み、直線で寄られるシーンがありながら、1馬身差の3着。秋緒戦の京成杯AHは2着だったとはいえ、勝ち馬と6キロもの斤量差があった。

「いよいよ完成の域に入ってきました。いろいろ工夫した結果、爪に関しても伸びを妨げないよう、通常の装蹄方法を施せるように。落ち着きを増し、気性面の成長も明らかでしたね。それでいて、激しい戦いを重ねても心が折れることはなく、旺盛な闘志を燃やしてくれる」

 1番人気(単勝2・4倍)の支持に応え、富士Sに優勝。スローな流れにも難なく対応し、好位から危なげなく抜け出した。

「マイルCSは3着でしたが、完璧な立ち回り。しっかり英気を養い、勝負と見ていた6歳シーズンを迎えました。ところが、復帰予定だった東京新聞杯が降雪で中止となり、阪急杯(9着)へ。すっかり歯車が狂ってしまって。それでも、安田記念(4着)ではリズムを取り戻してくれた。前年とと違ったパターンで関屋記念(2着)に参戦。富士S(7着)では脚がたまらず、案外な結果でしたが、すべての面で上向き、ベストの態勢を整えることができました」

 そして、再びマイルCSへ。大きな獲物を目がけ、ダノンシャークが牙をむいた。内目にこだわって馬群をさばき、一歩つずつ差を詰める。きっちりハナ差だけ捕え、ついにG1の栄光を勝ち取った。

 以降は未勝利に終わったとはいえ、7歳時の毎日王冠に4着。8歳にしてマイラーズSをクビ差の2着するなど、息長く存在感を示す。ラストランとなったマイルCSも、ゴール前で不利を受けながら、4着に迫った。

 種牡馬としては活躍馬を送り出せず、2021年に引退。それでも、現役時代に発揮した強烈な切れ味は、次世代のファンへも語り継がれていく。