サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ブラックムーン

【2018年 京都金杯】煌々と光を放つ初春の満月

 障害への転向2戦目にして、京都金杯以来となる3年8か月ぶりの勝利を飾ったブラックムーン(現在は辻野泰之厩舎の所属)。定年まで深い愛情を注いだ西浦勝一調教師は、こう若駒当時を振り返る。

「1歳の春に見て、整ったバランスに惹かれた。すらっとして地味な印象も受けたけど、鍛えて筋肉が付いてきたら、血統のイメージ以上に大成が期待できそう。ディアレストクラブでの育成時もトラブルなどなかったが、まだ体質は弱かった。先々を考え、慎重にステップを踏むことにしたんだ」

 2歳6月、いったん栗東へ移動。ゲート試験をパスすると、じっくり成長を促したうえ、年明けに帰厩した。京都、芝1600mでデビュー。いきなりハナ差の2着に食い下がる。続く同条件を順当に勝利。インで窮屈な走りを強いられたフローラルウォーク賞(3着)も、ハナ+ハナの接戦を演じた。

 ドバイューティーフリー、ジャパンCなどを制したアドマイヤムーンの産駒。地方で4勝したロイヤルアタック(その父ジェネラス)が母であり、同馬の半兄にゴールデンアタック(2勝)、カリスマアキラ (2勝、地方3勝)がいる。

「スピードタイプじゃなく、調教では動けなくて。それなのに、相手が来るぶんだけ、渋太くがんばるのに感心させられた。奥の深さが伝わってきたね。気性的な部分で、短めな条件にシフトせざるを得ないことが多い父なのに、ほんと大人しく、扱いやすい。実戦でもテンションが上がらず、きちんと折り合える」

 ここで半年間のリフレッシュへ。復帰緒戦の阪神こそ6着に敗れたが、10月の新潟(芝1600m)を豪快に突き抜ける。出遅れを跳ね除け、ドンカスターCも目を見張る切れ味を駆使。鮮やかな連勝劇だった。

「2勝目は見えていたし、続戦も可能な状況だったが、伸びる芽を摘んでしまったら後悔する。無理させなかったことで、ぐんとたくましくなったね」

 昇級に加え、初の1800mとなった逆瀬川S(2着)でも、きっちり脚を伸ばした。元町S(4着)、石清水S(2着)、飛鳥S(3着)と善戦を重ね、スピカSに優勝。六甲S(3着)を経て、秋初戦の西宮Sを差し切る。初の重賞挑戦となった富士Sは6着だったものの、キャピタルSでオープン勝ちを決めた。

「思い描いた通りにステップアップ。成長が遅めななかでも、伸びる時期に差しかかり、体力面に余裕が出てきた。天性の決め脚を安定して発揮できるようになったよ。このままの姿を保ちながら、パワーアップしてくれれば、タイトルに手が届くと信じていた」

 京都金杯(9着)、東京新聞杯(8着)と末脚が不発。米子Sをレコード勝ちしてリズムに乗り、中京記念は3着まで猛追した。だが、末一手の脚質ゆえ、どうしても展開に左右される。関屋記念(15着)、富士S(8着)、マイルCS(6着)、リゲルS(5着)と期待に反してしまった。

 持ち味を存分に発揮したのが、6歳時の京都金杯。じっくり構える戦法を貫きながらも、勝負どころの手応えは楽だった。大外を回しながら、レースの上がりを1秒2も凌ぐ鋭さ(3ハロン33秒9)を駆使し、ついに念願の栄光をつかみ取る。初騎乗となった武豊騎手も、非凡な才能を絶賛した。

「ペースが上がらず、若干、早めの仕掛けとなりましたが、とても乗りやすかった。ゴーサインにしっかり反応。デキも上向いていたのでしょう。抱いていたイメージに違わぬ伸び。年末(有馬記念をキタサンブラックで制覇)に続き、今年も『ブラック』の年にしたい」

 新春に満月を迎え、明るい未来を予感させたブラックムーンだったが、ピークの時期は短く、以降は21連敗。それでも、馬づくりの達人に磨かれ、誰もが見上げる輝きを放った京都金杯のパフォーマンスは、いつまでも色褪せず、目に焼き付いたままである。