サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
フィフスペトル
【2011年 京成杯オータムハンデ】フレッシュな芳香を永久に放つ5枚の花びら
5月22日の遅生まれながら、ノーザンファーム空港での育成時より軽快な動きが評判だったフィフスペトル。2歳7月に函館(芝1200m)で競馬場に初登場すると、2番手から危なげなく抜け出した。
続く函館2歳Sは後方の位置取りとなったが、激しい流れを追いかけずにじっと脚をため、若駒離れした瞬発力を見せ付けた。あっさりと交わし去り、後続に2馬身半も差を広げる。
鞍上の三浦皇成騎手は、同年の3月に免許を手にしたばかり。早速、初となるタイトルを手にし、こう喜びを爆発させた。
「ずっと忘れられない勝利になるでしょうね。デビュー前から跨っていた馬。能力には自信を持っていたんです。ゲートは出たなりで。勝負どころでは自分でハミを取ってくれましたし、ロスなく直線に向けましたよ。終いの切れもイメージ通りです」
父は偉大なキングカメハメハ。これが産駒の重賞初勝利だった。母ライラックレーン(その父バーリ、アメリカで不出走)の半姉にブラッシングケイディー(G1・ケンタッキーなど重賞4勝)、半妹にもアンビシャスキャット(カナダの芝牝馬チャンピオン、G2・ダンススマートリーS)がいる魅力の母系である。同期に先駆けて才能を開花させたとはいえ、奥深さも兼ね備えていた。
京王杯2歳Sは展開に泣き、惜しくも2着。朝日杯FSも懸命に脚を伸ばしながら、アタマ差の2着に終わる。スプリングS(3着)より皐月賞(7着)に駒を進めたうえ、不利な外枠を引きながらもNHKマイルCは5着に食い下がった。過酷な不良馬場に泣いたものの、ダービー(11着)への参戦も果たしている。
3歳秋はスワンS(8着)、マイルCS(8着)と足踏みしたが、ファイナルSで2着に浮上し、明るい未来を予感させた。東風Sで久々に勝利。ダービー卿CTも見せ場たっぷりの4着だった。ところが、左前の管骨を亀裂骨折していたことが判明。1年間のブランクを強いられる。
復帰後は2戦を消化して調子を上げ、夏至Sを順当勝ち。ひと息入れ、京成杯AHに臨む。高速馬場に加え、息の入らないラップが刻まれたなか、中団の外でぴたりと折り合う。直線の追い比べでも勢いは衰えず、ぐいと2着馬を突き放した。
「この馬とは2度目のコンビ。前回(京王杯SCを6着)は直線で前が開かず、追えなかった。悔しい思いを吹き飛ばすパフォーマンだったね。馬はよくがんばったし、自分としてもいい乗り方ができたよ。パドックから返し馬までリラックス。道中はリズム良く走れ、追ってからも手応えどおりの伸びだった。ようやく実が入ってきたんだろう」
と、復活の願いを託された横山典弘騎手は安堵の笑みを浮かる。3年ぶりにつかんだ重賞の勲章だけに、加藤征弘調教師も喜びを隠そうとしなかった。
「重度の症状でしたので、しばらくはボルトで固定した患部を気にするような素振りもあったのですが、だんだん手先のグリップが柔らかくなってきました。牧場サイドも丁寧に仕上げてくれましたからね。馬に感謝するしかありません」
スプリンターズS(6着)を経て、マイルCSではわずかクビ差の2着に健闘。さらに夢がふくらんだ。だが、以降は9連敗を重ねてしまう。そして、突然の悲劇が。7歳5月の調教中に左後肢に重度の骨折を発症してしまい、安楽死の措置が取られた。
馬名は「5枚の花びら」との意味であり、「ハッピーライラック」と呼ばれる幸運のシンボルのこと。それに反し、苦難に付きまとわれた競走生活だったかもしれない。それでも、素質をフルに開花させ、みごとに5勝目を達成したシーンは、いつまでもフレッシュな芳香を放ち続ける。