サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ファイナルフォーム
【2012年 ラジオNIKKEI賞】若くして遂げた最終形態への進化
ジェンティルドンナ(牝馬3冠、ジャパンC2回、ドバイシーマクラシック、有馬記念)、ディープブリランテ(ダービー)、ヴィルシーナ(ヴィクトリアマイル2回)をはじめ、続々とスターホースが登場したディープインパクトのセカンドシーズン。ファイナルフォームもきらりと光る才能を示した一頭だった。
母ファイナルデスティネーション(その父オレイリー)は、新G1・CJCニュージーランド1000ギニーの勝ち馬であり、同馬の半兄にはダノンムロー(5勝、地方4勝)、ファイナルスコアー(5勝、地方3勝)、トーセンケイトゥー(3勝)がいる。社台サラブレッドクラブにラインナップ。募集総額は8000万円に設定された。
社台ファームでの育成を経て、2歳7月に美浦へ。ゲート試験を1回でパスすると、いったん山元トレセンに移動して乗り込みを進めた。9月に帰厩したものの、左前を挫跖するアクシデントがあり、再度の放牧を挟んで回復を待つことに。ようやく態勢が整い、トレセンに戻ったのは2月になってからだった。
3月の中山(未勝利の芝1800)でデビュー。まだ大型ゆえに体を持て余し気味だったものの、好位から抜け出し、ポテンシャルの違いを見せ付ける。昇級後の2戦は2着、3着。ただし、いずれも出遅れが響いた結果であり、ラスト3ハロンはメンバー中で最速の末脚を発揮していた。
ゴール手前で大きく外へ寄れる若さを見せながら、6月の東京(芝1600m)を順当勝ち。2番人気(単勝5・6倍)を背負い、ラジオNIKKEI賞へ駒を進めた。
前走を踏まえ、チークピーシーズを着用。五分のスタートを切れたうえ、5、6番手のインでしっかり脚がたまった。直線はあっさり馬群を割り、後続に2馬身の差。危なげない勝利だった。
手綱を託されたのは、当時、大井所属だった戸崎圭太騎手。こう声を弾ませる。
「何度もVTRで見て、すばらしい素質馬だと感じていました。ゲートについても、初戦はスムーズでしたし、変に意識せず、馬任せで大丈夫かと。想像したとおりでしたね。ずっと手応えが楽。最後は遊んでいたくらいです。もっと成長するでしょうし、スケールの大きさを感じますよ」
堀宣行厩舎との絆は深く、JRAでも前年の安田記念をリアルインパクトで制していた。この日は同ステーブルの管理馬で4勝をマークし、その後の活躍を予感させている。
リフレッシュを挟み、富士Sでも2着に追い込む。マイルCS(12着)は不利に泣いたが、阪神Cで3着に巻き返し、3歳シーズンを終えた。
前途洋々かと思えたのだが、マイラーズCはスタートが決まらずに9着。エプソムCも追い出されてもたれ、5着に敗退した。
以降はノド鳴りの症状が表れ、手術後も呼吸器に変調をきたすなど、なかなか態勢は整わない。5歳秋になり、引退が決定。乗馬に転用後、2022年に天国へと旅立った。
着々と成果を上げる名手だけでなく、敏腕チームを勢い付かせたファイナルフォーム。短い競走生活だったとはいえ、いつまでも忘れられない優駿である。