サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

フラガラッハ

【2013年 中京記念】灼熱のサマーマイルを切り裂く聖なる剣

 早くから頭角を現したうえ、9歳まで息の長い競走生活を送ったフラガラッハ。デュランダル(馬名はフランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する剣のこと)のファーストクロップにして、代表的な傑作である。父より連想され、ケルト神話に登場する聖剣の名が付けられた。

 母スキッフル(その父トニービン)は1戦未勝利だが、愛3歳および英3歳牝馬チャンピオンに輝いた曽祖母シュートアラインに連なる名牝系。イリュミナンス(4勝、クイーンC3着、クイーンS3着、クロミナンスの母)、フェルメッツァ(5勝、アーリントンC3着、小倉記念3着)、エスティタート(5勝、シルクロードS2着、京都牝馬S3着)と、同馬の妹弟たちもコンスタントに活躍している。

 2歳12月のデビュー戦(阪神の芝1800m)は2着。京都のダート1800mで順当に初勝利を収め、京成杯も4着に健闘する。大きく出遅れながら、アーリントンCを5着。中山の自己条件(芝1600m)で、鮮やかな大外一気を決めた。

 だが、レース中、左前のつなぎに軽度の剥離骨折を発症し、半年間のブランク。それでも、10月の東京(芝1600m)、紅葉Sと連勝を飾る。東京新聞杯(11着)を経て、阪急杯では3着に追い込んだものの、最大の課題はゲートだった。マイラーズC(16着)、京王杯SC(15着)は後方のまま。夏場のリフレッシュ後に道頓堀Sを楽勝しながら、スワンSは10着と、成績は激しく上下動する。終い勝負に徹した阪神Cを3着し、4歳シーズンを終える。

 ダートのオアシスSは10着に終わったものの、夏場に向けて調子を上げ、米子Sを鮮やかに差し切り。ラストは32秒6の鋭さだった。みごとに持ち味を引き出したのが高倉稜騎手。やる気にあふれる若手とのコンビが定着する。

 中京記念も最後方の位置取りとなったが、同馬としてはスタートもスムーズ。馬場の荒れた部分を避け、虎視眈々と追い出しのタイミングを計った。ラストの脚は目を見張るものがあり、後続に1馬身半の差を付ける完勝だった。ジョッキーにとっても念願の初重賞。高倉騎手は、こうパートナーを称える。

「前走時の調教から跨って、馬とのコンタクトはスムーズに取れていました。きょうも折り合いに専念。馬の力を信じ、直線に賭けたんです。一瞬、狭くなりましたが、怯む気配はなかった。すばらしい伸びでしたよ。いまの状態を維持できれば、今後も期待できます」

 展開に左右されるのは相変わらずであり、富士S(14着)より6連敗。しかし、6歳時の中京記念でみごとに復活する。同馬らしく大外を強襲。着差は半馬身だったが、先行勢に有利なスローペースを跳ね除けただけに、強さが際立つ内容といえた。高倉騎手も、前年以上に感激の表情を浮かべる。

「大外枠を引いた時点で、ダッシュが付かなくてもやれそうに思いました。落ち着いた流れも予想通り。前を射程圏に入れて運べましたね。ずっと乗せてもらいながら、なかなか結果を出せなかった。ここで勝てて、ほっとしましたよ」

 天皇賞・秋(9着)以降は長めの距離へもチャレンジし、金鯱賞(5着)とアメリカJCC(5着)で掲示板を確保。鳴尾記念は3着に前進した。中京記念(10着)の3連覇がかなわなかったとはいえ、懸命に追い上げたオールカマー(4着)や、意表をつく逃げの手で見せ場をつくった日経賞(5着)のパフォーマンスからも、衰えは感じられなかった。

 左前の繋靭帯に軽い炎症を発症する誤算を跳ね除け、アルゼンチン共和国杯(17着)で復帰したが、発走調教再審査の制裁。鳴尾記念(12着)まで、さらに3戦を積み重ねたところで現役を退くことに。乗馬に転身後、わずか1年余りで事故に見舞われ、天国へと旅立った。

 不発が多かったとはいえ、中京のマイルでは桁違いの瞬発力を発揮したフラガラッハ。サマーシリーズが到来すれば、その勇姿がくっきりと蘇ってくる。