サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ブライトライン
【2012年 ファルコンステークス】愛情に磨かれた輝かしきアウトライン
2歳9月の小倉、芝1800mでデビューしたブライトライン。4着、2着と着順を上げ、京都の芝2000mで初勝利を挙げた。続く黄菊賞も連勝。だが、ラジオNIKKEI杯2歳S(5着)、京成杯(10着)、アーリントンC(7着)と、重賞戦線での成績は激しく上下する。ただし、鮫島一歩調教師は、もともと将来性を高く買っていた。
「母シェリーズスマイル(その父キングオブキングス)は、思い入れが深い繁殖。すばらしいバランスをしていて、キーンランドのセプテンバーセール(20万ドルで落札)でひと目惚れしたんです。脚元の故障で競走馬にはなれなかったのですが、きっといい仔を出すと信じていましたよ。きれいなラインは母譲り。父の個性も加味され、入厩した当初でも、調教はしっかり動けました」
様々なカテゴリーに一流馬を送ったフジキセキの産駒。アルゼンチン1000ギニーを制した曽祖母タバ(米G1を2勝したターコマンの母)に連なる筋が通ったファミリーであり、ラフアウェイ(5勝)は同馬の半姉、叔母にもサーガノヴェル(フェアリーS、クリスタルC)がいる。
ファルコンSを後方一気に突き抜ける。過酷なハイペースとなり、前後半の3ハロンを比較すると、ほとんどの馬は上がりのほうが要しているのに、入りが36秒4だったのに対し、ラストを35秒5でまとめた。スピードのみならず、強靭さを物語る数字といえる。
「折り合い面に配慮して、距離を縮めてみることに。ずばりと狙いが的中しました。普段は大人しいのですが、レースへいくと即座にスイッチが入ってしまう。中距離だって走れるスタミナがあっても、どうしても気持ちが空回り。まっすぐに走ってくれないんです」
ニュージーランドTも3着に健闘し、NHKマイルC(10着)やダービー(17着)へも駒を進める。だが、半年間のリフレッシュ後も流れに乗ったレースができず、キャピタルSを7着。阪神C(6着)や東京新聞杯(5着)で直線の伸び脚が目立ったものの、出遅れが響き、阪急杯は11着に終わった。
「ここで、いずれ試したかった条件に目を向けました。もともと安藤勝己騎手が、『パワーが半端じゃない。ダートを走らせたらすごいかも』と話していた個性です。それでも、適性は想像以上でしたよ。ダートならコントロールが容易。馬任せでも前々をスムーズに運べ、折り合いに気を遣うことがありません。ストレスを抱えず、自分のリズムで競馬ができますので、疲労も残らない。心身が噛み合ってきた実感がありましたね」
初のダート戦となった京葉Sから僅差の3着と健闘し、麦秋Sでは楽々と逃げ切りを決めた。距離が延長されたマリーンSも難なく対応でき、4馬身差の快勝。エルムSは3着に終わったとはいえ、いったん控えて外へ進路を切り替えざるを得なかった結果である。
陣営の愛情に応え、どんどん輝きを増したブライトライン。「目立たせる、強調する」との馬名どおり、みやこSでは一際、目を引くパフォーマンスを披露する。ついに砂戦線でも重賞制覇がかなった。JCダート(4着)、根岸S(4着)、フェブラリーS(5着)と善戦を重ね、ゴドルフィンマイル(5着)へも遠征する。
帰国後は調子を取り戻せず、5連敗を喫したが、骨折による1年のブランクを乗り越え、2戦続けて3着したうえ、オアシスSにて復活のゴールを飾った。結局、これが最後の勝利になったとはいえ、8歳時に夢見月S、東京スプリントと連続して2着に食い下がるなど、息長く実力を誇示している。
9歳秋の室町S(14着)がラストラン。左前の関節を脱臼する重症を負い、天国へ旅立った。あまりに悲しいエピローグ。多くのファンの目には、いまでも輝かしいアウトラインが焼き付いたままである。