サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

フェラーリピサ

【2009年 根岸ステークス】度重なる苦境を乗り越えた規格外のフォーミュラカー

 3歳1月、京都の新馬(芝1600m)はトーセンキャプテン(後にアーリントンC、函館記念)の2着に敗れたものの、ダート1800mの未勝利に臨むと、出遅れながらも4角では馬なりで先頭に立ち、4馬身差の圧勝を収めたフェラーリピサ。米2勝の母ドリータルボ(その父カポウティ)に、ベルモントSを制したタッチゴールドが配されて誕生した。フェラーリと名付けられた高級外車だが、筋肉隆々のアメリカンである。

「検疫厩舎でその姿を確認して、なんてすごい馬体だろうと驚きましたね。でも、最初に跨った感じはわりと普通。非凡なパワーが伝わってきたとはいえ、ちょっと気が小さくて。きょろきょろしたり、立ち上がったり、性格的に子供っぽかったんです。それが、攻め馬を積むたびに進歩し、速いところへいけば併走相手に楽々と先着。繋ぎが立っていますから、腱に疲れがたまりやすかったのに、乗っていくうちに勝手にすっきりしていく。もともと大きな夢を抱いていましたよ」
 と、持ち乗りで担当した橋本智成調教助手は、デビュー当時を振り返る。

 ハイペースを2番手で追走したのにもかかわらず、ヒヤシンスSでも後続を4馬身も置き去りにした。スプリングS(9着)、皐月賞(16着)とターフでは結果が出なかったが、兵庫チャンピオンシップを3馬身差で優勝。ダートでは無傷のまま、重賞ウイナーに輝く。ユニコーンSは2着に惜敗したものの、底知れない可能性を感じさせた。

 半年間の休養を経ても、なかなかフレッシュさを取り戻せず、精神面も力みがち。欅Sで久々に勝利するまで6連敗を喫してしまう。ただし、いったん勢いに乗れば、長く好調が持続する。小回りコースへの適性も高く、大沼S(1着)、マリーンS(2着)、クラスターC(2着)と、4歳夏に充実期を迎えた。

 エルムSを快勝。息の入らない流れを跳ね除け、これまでのイメージを一変させる伸び脚を披露する。完全にひと皮向けたかと思わせた矢先、顔面に神経痛を発症。原因不明の奇病ではあったが、橋本助手は懸命にケアを施した。

 根岸Sで復帰。3番手で脚をため、楽な手応えで直線に向くと、しっかりと前を捕えた。直線勝負に賭けたヒシカツリーダーを退け、みごと復活の勝利。岩田康誠騎手も、晴れやかな笑みを浮かべる。

「脚抜きのいい重馬場を意識した積極策。スタートに集中し、思い通りのポジションを取れた。行かせたぶん、向正面はかかっていたけど、すぐに折り合えたからね。ぎりぎりまで追い出しを我慢。最後までよくがんばった。陣営の努力が実り、馬体は十分に仕上がっていたよ。旺盛な闘志も健在。この馬のすばらしさを再認識したなぁ」

 以降は勝ち切れなかったとはいえ、フェブラリーS(5着)、黒船賞(2着)、かしわ記念(3着)、日本テレビ盃(2着)と健闘を続けた。

 ところが、骨折に見舞われ、2年以上もの療養生活。カペラS(12着)、根岸S(15着)と歩んだところで引退が決まった。規格外のエンジンを搭載していたうえ、不屈の闘志を燃やし続け、何度も苦境から立ち直ったフェラーリピサ。様々な魅力を併せ持ったスーパーカーだった。