サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

プロフェット

【2016年 京成杯】初春に垣間見せた成功の前兆

 キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを11馬身もの大差を付けてレコード勝ちしたハービンジャー。重厚なヨーロッパ血統だけに、大舞台向きの底力が魅力であり、モズカッチャン(エリザベス女王杯)、ディアドラ(秋華賞、ナッソーステークス)、ブラストワンピース(有馬記念)、ノームコア(ヴィクトリアマイル、香港C)、チェルヴィニア(オークス、秋華賞)らがG1制覇を果たしているが、ハービンジャーと同様、先駆者との意味を持つプロフェットも、育成当時より成功の前兆を垣間見せていた逸材だった。池江泰寿調教師は、父に初となるタイトルをもたらしたベルーフ(京成杯)や、ペルシアンナイト(マイルCS)も管理。それでも、期待の大きさは両馬を凌ぐものがあったと振り返る。

「1歳で初めて見たときも垢抜けたスタイル。いい馬だと見惚れました。ただ、たくましい体格が特長の一族にあって、母は思ったほど大きく育たず、激しい気性にも課題。この仔もよく似ていますよ。ただし、ノーザンファーム早来できちんと教育され、普段は落ち着きを保てるように。調整に苦労はありませんし、仕上がりも早かったですね」

 母ジュモー(その父タニノギムレット)はダートで3勝をマーク。池江師にとって馴染みの深い曽祖母フェアリードール(トゥザヴィクトリー、トゥザグローリーらの母)に連なるファミリーだ。同馬の半弟にあたるクラージュゲリエは、京都2歳Sに優勝している。

 2歳6月に栗東へ。当初よりフットワークは軽く、全身を柔軟に使えた。8月の札幌(芝1800m)でデビューし、危なげない逃げ切り勝ち。札幌2歳S(ハナ差の2着)も中団から楽な手応えでポジションを上げ、ゴールまでしっかり脚を駆使した。

「ダートコースで調教さぜるを得ない環境だっこともあり、2戦目まではソエが痛かったんです。そんな状態でも勝ち負けに持ち込めたのは、非凡な能力があってこそ。萩S(5着)はスローの決め手比べに屈したとはいえ、そう悲観する内容でもなかった。その後に下降していた状態を立て直し、細かった飼い食いも良化。順調な成長曲線を描いていたとはいえ、まだ実戦でのイレ込みも目立ち、これから良くなる余地をたっぷり見込んでいましたよ」

 2か月半、間隔を空け、京成杯より3歳シーズンをスタート。安定したレース運びがかない、直線は外目を堂々と突き抜ける。

「すっと好位を取れるセンスの良さに加え、追って味がある。コーナー4つの小回りコースは合いますね。ラストでもう一段、ギアが上がり、突き離せたあたりはスタミナの証明。距離が延びるダービーへも、夢がふくらみました。使い込むのに不安があり、早めに賞金を加算できたのはアドバンテージ。目標に向け、じっくりと態勢を整えていけたのですが」

 しかし、心身に繊細さを抱えた状況は変わらず、皐月賞(11着)、ダービー(17着)、さらにセントライト記念(9着)、福島記念(8着)も不完全燃焼。白富士Sを3着して復調のきっかりをつかんだかと思わせたが、以降もオープンでは善戦止まりに終わった。降級後も2着が3走ありながら連敗を重ねる。去勢の効果もなく、6歳夏のワールドASJ第2戦(14着)を大敗したことで引退が決まった。

 競走生活の後半は苦悩の連続ではあったが、生まれ持った才能だけで勝ち取った初春の栄光は決して色褪せない。ハービンジャーの偉大さをアピールする貴重な一撃だった。