サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ダノンレジェンド
【2015年 東京盃】伝説のチャンピオン~ We'll keep on fighting till the end ~
バレッツ社マーチセールにて38万5000ドルで落札されたダノンレジェンド。公開調教では内にもたれ、満足に追えなかったものの、1番時計(1ハロン9秒8)をマークしている。
父はホーリーブルの後継であり、BCジュヴェナイルを制してアメリカの2歳チャンピオンに輝いたマッチョウノ。母マイグッドネス(その父ストームキャット)は米1勝のみの成績ながら、BCジュヴェナイルフィリーズに勝ち、2歳牝馬チャンピオンに輝いた祖母カレシングに連なる魅力的なファミリーである。半弟のダノングッド(6勝、地方3勝)、ダノンキングリー(安田記念など重賞4勝、ダービー2着)も大成功を収めている。
2歳4月の輸入後は吉澤ステーブルで順調に乗り込まれ、10月には栗東へ移動したダノンレジェンド。すぐにゲート試験をパスし、1か月弱で出走態勢が整った。担当した新谷紘克調教助手(村山明厩舎)は、こう若駒当時を振り返る。
「トレーニングセールのビデオを見て、激しい気性の持ち主なのかと想像していたら、コントロールも利き、とても乗りやすかったですよ。骨太の筋肉質ではなく、皮膚が薄くて上品。通常のダートタイプとも違い、硬さがありません。スピードとパワーをバランス良く兼ね備えていました」
東京の新馬(ダート1400m)では7馬身差の楽勝を収める。ポインセチア賞はハナ差の2着。続く東京のダート1600mでもいったん先頭に立ち、2着を確保した。3か月のリフレッシュを挟み、調教の動きは一段と良化。だが、京都の芝1600m(9着)、ダート1400m(13着)と大きく期待を裏切る。
「3頭併せの真ん中に入れて我慢させたり、砂を被せる訓練もしましたが、馬込みでもまれたらダメ。賢さが悪いほうへ向き、自らやめてしまうんです」
頭数の少ない笠松の地方交流に目を向け、恵那峡特別を2着。数河特別で2勝目を挙げた。長めの距離で逃げの手に出た市原特別は7着。東京のマイルで追い込みを試みた2戦でも、5着、6着と一息の成績に終わったが、距離短縮とシャドールールを着用した効果もあり、阪神のダート1400mを好位から抜け出す。なにわSもあっさり連勝。昇級戦にもかかわらず、後続に5馬身の差を付けるワンサイド勝ちだった。
「精神面の子供っぽさに邪魔され、ずいぶん歯がゆい思いをしましたが、本来は条件戦で足踏みするような器ではない。2戦とも外枠を引き、積極的に押して遊ばせないような乗り方が功を奏しましたね」
だが、すんなり先行がかなわず、オープンの2戦は8着、9着。降級2戦目にテレビ静岡賞を危なげなく逃げ切ったが、厳しいペースに息切れし、オータムリーフSでは5着に敗れた。初めての重賞挑戦となったのがカペラS。前半3ハロンが33秒3という激流を自ら演出しながら、後続との差はなかなか詰まらない。5馬身差の圧勝劇を演じる。
それでも、ダノンレジェンドの伝説は、まだ序章にすぎなかった。ようやく闘志に火が点き、黒船賞、東京スプリントとタイトルを奪取。後方の位置取りとなった北海道スプリントCも3着に追い込む。さらにクラスターCに優勝した。
大外枠を引き、スタートから押す必要があった東京盃。それでも、直線で悠々と先頭に立ち、2馬身の差を広げてゴールに飛び込む。いよいよG1制覇が視界に入ってきた。
「古馬になっても、心身ともに伸びる余地はたっぷり残されていました。レースを覚えてくれたら、もっと走れると信じていましたよ。将来を考え、間隔を開けながら使ってきましたし、びしびし攻めてもいなかった。使われるごと、想像通りにたくましさを増してくれたんです」
5歳時のJBCスプリントは2着だったが、すっかり完成の域に入った。翌シーズンも快進撃が続き、黒船賞、北海道スプリントC、クラスターCと勲章を追加。そして、大目標に掲げたJBCスプリントに駒を進めた。
強引にも映ったが、小回りの川崎コースを意識してハナにこだわり、向正面ではリードを広げる。直線も脚色は衰えず、3馬身差を保ったままの完勝。会心の騎乗がかない、ミルコ・デムーロ騎手も満面の笑みを浮かべる。
「あまりの強さに感動しました。ゲートの裏でも落ち着きがあり、好スタートを決められたのが勝因でしょう。すごいスピードで先頭に立っても、プレッシャーをかけらることもなく、終始、マイペース。去年のJBCや前走の東京盃(5着)で期待を裏切ってしまったのに、チャンスをくれた陣営に感謝するしかありません」
ラストランが生涯でも最高のパフォーマンス。3億6000万円余りの賞金を獲得したうえ、余力を残してイーストスタッドで種牡馬入りした。ミッキーヌチバナ(アンタレスS)、ハッピーマン(兵庫ジュニアグランプリ)らが存在感を示し、注目度を高めている。きっと将来のダート戦線へも、レジェンドを継承する逸材を送り出すに違いない。