サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ダンスファンタジア
【2011年 フェアリーステークス】汚名をそそぐファンタジーなステップ
カルティエ賞全欧最優秀古馬に輝いただけでなく、ジャパンCや香港Cも制したファルブラヴ。コンスタントに6頭の重賞ウイナーを誕生させた。トランスワープ(函館記念、新潟記念)以外はすべて牝なのが特徴。勝ち気な性格を伝えるため、大型の牡となればコントロールの難しさに泣くケースが多かった。2014年シーズンを最後に種牡馬を引退したが、ハープスター、テトラドラクマ、ステルヴィオをはじめ、ブルードメアサイアーとしても存在感を高めている。
母父サンデーサイレンスの良血を中心に配合されたなかでも、ダンスファンタジアは生まれ落ちた瞬間より大きな期待をかけられた逸材だった。桜花賞やヴィクトリアマイルを制したダンスインザムードの初仔。叔父母にエアダブリン(青葉賞など重賞3勝)、ダンスパートナー(オークス、エリザベス女王杯)、ダンスインザダーク(菊花賞)らがいる豪華なファミリーである。
社台サラブレッドクラブにて4000万円で募集された同馬は、2歳の8月末、美浦に移動。入念にタイムをマークしたうえ、10月の東京(芝1400m)で新馬勝ちを飾った。続く赤松賞も楽に突き抜け、阪神JFに挑んだものの、初の長距離輸送にイレ込み、9着に敗れる。
汚名返上を果たすとともに、クラシックに向けて弾みを付けようと考えた陣営は、ファンタジーSへ参戦させた。5ハロンの通過が57秒1と流れ、隊列は縦長に延びた。折り合いに課題を残す同馬にとって、絶好の展開だった。中団待機から3コーナーすぎでポジションを上げ、直線は外へ。手応えどおりに弾け、後続に2馬身半の差を広げ、ゴールへ飛び込んだ。
持ち味をフルに引き出したのは、アントニー・クラストゥス騎手だった。日本での初重賞制覇に声を弾ませる。
「このレースに臨むのにあたっては、調教にも跨らせてもらったし、これまでのビデオも見てイメージをつかんでいた。とても繊細なタイプであることが伝わってきたよ。レースは出たなりで組み立てようと思っていたが、想像に反してリラックスしていたので、前半からいけると感じていた。特別な操作をする必要もなく、楽な競馬だったね。直線に入り、スピードを上げたときの感触もすばらしかった。きょうのようなレースができれば、もっと長い距離もこなせそうだし、これからどんどん良くなりそう」
だが、レースを重ねるごとに落ち着きを保てなくなる。クイーンC(6着)に続き、桜花賞(7着)でも不完全燃焼。フローラS(13着)、NHKマイルC(15着)と大敗してしまった。
秋緒戦のポートアイランドSこそ3着に健闘したが、以降も立ち直れなかった。準オープンに降級後に3回、2着したとはいえ、物足りない成績。6歳2月の初音S(4着)を最後に繁殖入りした。
気持ちの問題で伸び悩んだとはいっても、フェアリーSで披露した強さは本物。母としてもダノンファスト(5勝)、ヒップホップソウル(1勝、紫苑Sを2着、フラワーC2着)、グラウンドビート(3勝)らを輩出。この一族ならではの瞬発力は次世代へと受け継がれていく。