サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
タッチングスピーチ
【2015年 ローズステークス】大観衆を魅了した珠玉のスピーチ
ディープインパクト産駒の牝との相性が良く、代表格となるジェンティルドンナ(ジャパンC連覇、ドバイシーマクラシックなどG1を7勝)、シンハライト(オークス)などを手がけた石坂正調教師。タッチングスピーチも破格のスケールを見込む期待の逸材だった。
母リッスン(その父サドラーズウェルズ)はアイルランド生まれ。英G1・フィリーズマイルに勝った一流馬である。同馬の従兄にヘンリーザナヴィゲイター(英2000ギニーなどG1を4勝)が名を連ねるファミリー。サンデーサラブレッドクラブにて総額は6000万円で募集された。同馬の半姉にアスコルティ(アスコリピチェーノの母)。全弟妹のムーヴザワールド(東京スポーツ杯2歳Sを3着、共同通信杯3着)、サトノルークス(菊花賞2着、セントライト記念2着)も非凡な才能を垣間見せている。
ノーザンファーム早来で順調にペースアップ。2歳8月、NFしがらきに移ってコンディションを整え、1か月後には栗東へ。ゲート試験を1回でクリアしているように、牝にしては落ち着きがあり、学習能力も優秀。ひと追いごとに進歩を見せていた。
「奥が深い血統だけに、デビュー前から上を目指せる器だと信じていたよ。ただし、典型的な晩生。仕上げやすい一方、当初は体質が繊細でね。調教でも力強く動けなかった。牝馬限定だったこともあり、デビュー戦は京都の芝1600m(3着)を選んだが、なかなかエンジンがかからなくて。もともと長めの距離が向くと見ていた」
と、石坂トレーナーは若駒当時を振り返る。
2戦目の阪神(芝2000m)をきっちり差し切る。だが、チーリップ賞(9着)、忘れな草賞(8着)と敗戦を重ね、クラシックの夢は途切れてしまった。
「レースを使うと体が減ってしまい、回復に時間がかかる。完成度としては未勝利のまま、苦戦が続いても不思議はなかったよ。いまとなれば、あの時点で1勝できたのが貴重。無理せずに涼しい北海道へ移動させ、成長を促すこともできたんだ」
レースのラスト3ハロンを1秒4も上回る末脚(34秒2)を炸裂させ、札幌の芝2000mに快勝。ローズSでの強さも目を見張るものがあった。大外を突き抜け、牝馬2冠に輝くミッキークイーンを寄せ付けなかった。
「実戦へいかないとフットワークの回転が上がるかどうかがつかみにくい個性。驚かされたね。見た目はそう変わっていなかったが、中身が詰まり、精神的にも強化されたのは明らかだった」
内回りの高速決着に持ち味が生きなかった秋華賞(6着)を経て、エリザベス女王杯もクビ+ハナ差の3着に迫った。京都記念も2着に追い上げる。ところが、大阪杯(9着)以降、心身ともフレッシュな状態に戻り切れず、5歳秋のエリザベス女王杯(17着)まで連敗を重ねた。
それでも、驚きのスピードで重賞ウイナーまで駆け上がったタッチングスピーチ(心に響く演説の意)。その名の通り、大観衆を魅了した天才肌である。繁殖としても、キングズレイン(3勝、ホープフルS3着)を輩出。次々と豪華な花を咲かせるに違いない。