サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

タイムパラドックス

【2006年 JBCクラシック】時を超えて語り継がれる強靭な破壊力

 2022年、24歳にて天国へと旅立ったタイムパラドックス。種牡馬としてもソルテ(さきたま杯)、トウケイタイガー(かきつばた記念)らを送り出している。

 サンデーサイレンスやノーザンテーストに次ぐ勝ち鞍を量産し、一時代を築いたブライアンズタイムの産駒。ナリタブライアン、マヤノトップガン、サニーブライアン、ファレノプシスをはじめ、数々のチャンピオンホースを誕生させたが、ダート路線にも傑作が多い。タイムパラドックスは堂々たる代表格。父らしく使われて味があり、成長力には目を見張るものがあった。

 その母ジョリーザザ(母父アルザオ、フランスで4勝)の半姉にローラローラ(天皇賞・春や有馬記念に勝ったサクラローレルの母)がいる。当初は華奢で目立たなかったが、社台ファームで丹念に基礎固めされ、徐々にたくましい筋肉が備わってきた。

3歳2月に栗東へ。翌月の阪神、ダート1800mでデビューすると、豪快に差し切って7馬身差の圧勝。続く500万下も難なく突破する。

 芝を試した青葉賞は11着に敗退。ソエを痛がるようになり、8か月間のリフレッシュを挟んだ。3戦を消化したところで右後脚に骨膜炎を発症。さらに7か月半のブランクを経る。

 4歳10月の京都、ダート1800mで3勝目をマーク。以降はまとまった休みを取ることなく、コンスタントに走り続けた。香嵐渓特別、矢作川特別と、暮れの中京を連勝。北山Sでは鮮やかな追い込みが決まり、オープン入りを果たす。

 末一手の脚質に泣き、勝ち切れずに5戦を費やしたとはいえ、トパーズSは好位から楽々と抜け出した。6歳にして、平安Sで初重賞勝ち。どんな流れでも崩れなくなり、いよいよ円熟期に入る。アンタレスSでも、タイトルを手中に収めた。

 帝王賞は4着に健闘。ブリーダーズゴールドC、白山大賞典と勝鞍を重ねたうえ、JBCクラシックで3着に食い込んだように、すでにトップクラスが相手でも通用するメドは立っていた。そして、JCダートでは、ついにG1の栄光をつかみ取る。しかも、2馬身半差の完勝だった。

 東京大賞典は4着に終わったものの、川崎記念を順当に制し、7歳シーズンも好スタート。フェブラリーS(4着)、ダイオライト記念(2着)、かしわ記念(2着)、東海S(3着)と勝ち切れなかったとはいえ、状態は高いレベルで安定していた。

 再び帝王賞に臨むと、これまで鬼門だった大井でも、持ち味を存分に発揮する。外目をあっさり突き抜け、1馬身半も差を広げた。さらに、名古屋で開催されたJBCクラシックに優勝。JCダート(4着)、東京大賞典(3着)、川崎記念(3着)まで21戦連続して重賞の4着以内を堅持する。

 8歳時のフェブラリーSは9着。ダイオライト記念(4着)、帝王賞(4着)、エルムS(10着)とトップとは1秒以上の差を付けられるレースが続き、勢いは衰えたかと思われたが、南部杯はコンマ5秒差の5着に踏み止まり、復調気配がうかがえた。

 そして、最後の勲章を手にした川崎のJBCクラシックへ。スタート直後は中団に位置していたが、2周目の向正面で一気に進出。4コーナーではリードを広げる。最後まで根気強く脚を伸ばし、1馬身半差を保ったままでゴール。みごと同レースの連覇がかない、平地G1では最高齢での勝利記録を更新した。5番人気(単勝11・9番)の評価を覆した岩田康誠騎手は、こう晴れやかな笑みを浮かべる。

「いつもよりいいポジション。そのまま辛抱しようかと思っていたが、ペースが遅く、行きたがっていたからね。引っ張らず、馬任せに運んだのが良かった。8歳になっても、馬は元気いっぱい。頭が下がるよ。これからも健闘してくれるだろう」

 ところが、これがラストランに。その後の調教で骨折し、引退が決まった。

 全50戦(うち16勝)を懸命に駆け抜けたタイムパラドックス。ジャングルポケット、クロフネ、マンハッタンカフェらが居並ぶハイレベルな世代にあって、最も多額の獲得賞金を獲得したのが同馬である。語り継がれるべき名馬といえよう。