サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ダンスディレクター

【2017年 シルクロードステークス】敏腕ディレクターが磨き抜いた華麗なステップ

 3歳4月、ようやく栗東へ移動したダンスディレクター。6月の阪神、芝1400mに初登場すると、出負けしながらも次元の違う鋭さを発揮し、後続を3馬身半も突き放した。笹田和秀調教師も、確かな才能を感じ取っていた。

「当歳のころより整ったスタイルをしていましたね。ただ、小柄で繊細。常に全力を尽くそうとしがちな性格だけに、坂東牧場での育成は体の成長に合わせ、あせらず進めました」

 伊藤雄二厩舎で調教助手を務めたトレーナーにとって、愛着が深いファミリー。母マザーリーフ(その父サンデーサイレンス)は未勝利に終わったが、祖母スカラシップがウイニングチケット(ダービー)やロイヤルタッチ(皐月賞や菊花賞を2着)の妹にあたる。エクリプス賞最優秀短距離馬に輝いたアルデバランⅡが配され、同馬はマイル以下で頭角を現した。

 4か月の間隔を開け、京都の芝1600mもあっさり差し切り。続く1000万下の芝1400mはスムーズさを欠き、半馬身差の2着に終わったものの、ラストの伸びは一際光った。翌春も山陽特別(8着)、阪神の芝1400m(4着)と期待を裏切ったが、鷹ヶ峰特別(1着)では大外からラスト33秒2の上がりを駆使。鮮やかな逆転劇だった。

 切れ味が削がれる荒れ馬場にもかかわらず、知多特別を3着まで押し上げ、体力アップを示す。道中で行きたがったことに配慮し、さらに精神面のリフレッシュを図り、久多特別(2着)より再スタート。直線で猛然と追い込みながら、わずかハナ差だけ届かなかったとはいえ、前が残るスローペースに加え、トップハンデを背負っての結果だった。初めての1200mに対応して、11月の京都に快勝。醍醐S、長篠Sと僅差の2着を続け、斑鳩Sで順当にオープン入りを果たす。

「瞬発力は重賞レベル。ゲートの遅さに関しては気にしていませんでしたよ。この血筋は真面目すぎる傾向にありますので、後ろから運び、脚をためるスタイルが合っているんです」

 京王杯SCは出遅れて12着に沈んだが、CBC賞で2着に反撃。軽い骨折を跳ね除け、阪神Cもハナ差の2着に追い込む。シルクロードSに駒を進め、ついに初のタイトルを手にした。好位のインでしっかり脚をためる正攻法のレーススタイル。6歳にして、いよいよ本格化してきた。

「気持ちのコントロールを覚え、少しずつ精神面が大人に。テンションの高さを和らげるべく、休みを挟んでレースの苦しさを忘れさせながら、大切に使ってきた成果です。もともと調教は動きましたが、力が要る坂路でもラストまでシャープに脚を伸ばせるように。体に芯が入り、フィジカルも充実しつつありました」

 ただし、全力を尽くした反動は大きく、深管に痛みを訴える。しっかり回復を待って再スタート。セントウルS(7着)や、スプリンターズS(15着)は流れに乗れなかったが、スワンS(4着)、阪神C(4着)と健闘を重ね、心と体が噛み合ってきた。本来の切れを存分に駆使し、シルクロードSを連覇。クビ差の辛勝だったとはいえ、スローペースを克服しての圧巻のパフォーマンスだった。

 ここで再度の骨折を発症。軽度だったものの、またしても高松宮記念へのチャレンジは断念する。セントウルS(3着)、スプリンターズS(8着)と歩み、阪神Cはわずかハナ差の惜敗。8歳時はシルクロードSをパスして高松宮記念に挑んだが、4着まで追い詰めたところがゴールだった。

 結局、京王杯SC(15着)がラストラン。敏腕ディレクターが描く長期的な未来図に沿い、奥深い輝きを放った同馬だったが、なかなか状態を取り戻せず、年齢も考慮して引退することとなった。種牡馬としては良績を残せず、静かに余生を過ごしているダンスディレクター。いつまでも華麗なステップを胸に止めておきたい。