サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

タンタアレグリア

【2017年 アメリカジョッキークラブカップ】完成途上でつかんだ至上の栄光

 追分ファーム・リリーバレーでの育成当時より、乗り味の良さが評価されていたタンタアレグリア。母タンタスエルテ(その父ステューカ)は、チリの2歳牝馬チャンピオンであり、G1のアルトゥーロ・リヨン・ペニャ賞など6勝をマーク。同馬の半姉にパララサルー(4勝)らがいて、繁殖成績も優秀である。G1サラブレッドクラブにて総額3000万円で募集された。

 パワーやスタミナにも優れたゼンノロブロイが父だが、サンデーサイレンス系統らしいシャープな体付き。早熟とは思えなかったものの、美浦に入厩後も順調にステップを踏み、2歳7月には福島の芝1800mでデビューを迎えた。後方の位置取りが響き、2着に終わったとはいえ、ラストは抜群の伸びを発揮している。

 続く新潟(芝1600m)もハナ差の2着に惜敗したが、11月に東京の芝2000mを快勝。レースのラスト3ハロンを1秒4も凌ぐ圧倒的な決め手(34秒7)を繰り出した。国枝栄調教師も、将来性に自信を深めたと振り返る。

「中間に熱発。まだ体質が弱かった。ソエや骨瘤も抱えていたのに、あの強さ。完成されたら、すごい馬になると思ったよ」

 ホープフルSは流れに乗れず、7着に敗退。ゆりかもめ賞もクビ差の2着だった。大寒桜賞で順当に2勝目を挙げると、青葉賞(2着)で優先出走権を確保して、ダービー(7着)へも駒を進める。秋シーズンはセントライト記念(6着)より始動。菊花賞を4着に健闘した。

 ダイヤモンドS(4着)、阪神大賞典(2着)、天皇賞・秋(4着)と善戦を重ね、順調に心身が充実。ただし、右前の球節に軽い炎症が認められ、9か月間のブランクを減る。丁寧に態勢を整え直し、アメリカJCCで久々の実戦を迎えた。

「人気(単勝14・7倍)を落としていたが、仕上がりに不安はなく、いきなりでも走れる手応えがあったよ。プラス12キロの体重は成長分。精神的な子供っぽさが薄れ、調教でも集中力を高めていたからね」

 じっくり構え、徐々にポジションを上げていったが、常に手応えは楽。トレーナーの見立て通り、鮮やかに馬群を割る。蛯名正義ジョッキーも、こう満足そうに声を弾ませた。

「レース勘がどうかという心配はあったけど、思った以上にスムーズな競馬ができた。4コーナーでは追い出しを待ったほど。馬群のほうがやる気を出してくれるタイプだから、直線で内へ入れたのも作戦通りだったよ」

 しかし、骨瘤の再発により、再び長期休養へ。オールカマーで3着し、能力を再認識させながら、今度は左トモに骨折を発症してしまう。7歳夏にトレセンへの帰厩を果たしたが、調教中に左後肢を粉砕骨折するアクシデントに見舞われ、あっさり天国に旅立った。

 スペイン語で「たくさんの喜び」を意味する馬名に反し、悲運な競走生活だったとはいえ、関係者だけでなく、多くのファンに勇気や希望を与えたタンタアレグリア。一気に苦境を跳ね返したAJCCでのベストパフォーマンスは、いつまでも鮮明なインパクトを放ち続ける。