サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

タガノディグオ

【2017年 兵庫チャンピオンシップ】一気呵成に進撃する若きエンペラー

 500万下を勝ち上がった直後ながら、2017年の兵庫チャンピオンシップを力強く差し切ったタガノディグオ。ベルモントSなど米G1を3勝したエンパイアメーカーが父である。

「この仔の叔父にあたるタガノエルシコ(5勝、重賞での3着が3回)も手がけ、思い入れが深い血統。当歳で見た時点でも、しっかりしたスタイルをしていたね。早くから豊富な体力を見込んでいて、すぐに勝てる手応えはあったが、この一族も、父の産駒も、気性の難しさが課題となることが多い。やれば動けてしまうのがわかっていても、大切に接して、余力を残した仕上げを心がけたよ」
 と、宮徹調教師は若駒当時を振り返る。

 母タガノティアーズ(その父タニノギムレット)も宮厩舎で走り、ダートで4勝をマークした。4代母の半兄にルビアノ(エクリプス賞最優秀短距離馬)が名を連ねるファミリーだ。

 6月に栗東へ。小倉の芝1800m(16着)で迎えた新馬はあっさり後退。ただし、この配合だけに、トレーナーもダートでの活躍を想像していた。適条件と見た9月の阪神(ダート1800m)で3着に前進する。

「普段は反抗的な態度など見せないが、やはり我が強く、レースでは物見してふわふわ。なかなか本気になってくれないのが悩みだったね」

 そんな弱点を抱えながらも、3走連続して2着に追い込む。シャドーロールを着用して集中力を増し、12月の阪神では豪快に大外一気。抜け出して遊びながら、3馬身も差を広げた。昇級後も強力メンバーを相手に2着、2着と、確実に末を伸ばし、3月の阪神では3馬身半差の楽勝。ようやく心身が噛み合ってきた。

「兵庫チャンピオンシップは、園田の小回りコース。柔軟な立ち回りが苦手だけに、前残りにならないか心配したけれど、ゲートは良化しつつあった。だんだんレースを覚え、精神的な課題も目立たなくなってきたしね。有力どころを射程に入れ、ゴールまで長く脚が持続。理想的な競馬ができた。付くべき筋肉が備わり、ずいぶんたくましくなって、力の要る馬場で結果を残せたうえ、時計は速くなっても裏付けはあった。まだまだまだまだ奥があると思わせたんだけど」

 若き皇帝の勢いは目覚ましく、着々と支配地を拡大していったディグオ(中国語で帝国)。ジャパンダートダービーも3着に健闘する。だが、レパードS以降(12着)、本来の闘志が蘇えらない。降級した翌夏に釜山Sを勝利したものの、6歳時の太秦S(13着)まで連敗を重ね、地方・兵庫へ転出した。

 気まぐれな面は変わらず、地方でも1勝のみの成績。それでも、8歳まで現役を続け、ときどき見せ場をつくった。エンパイア再建はかなわなかったものの、園田のダートコースには若き日の蹄跡がくっきりと刻まれている。