サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
タガノアザガル
【2015年 ファルコンステークス】天高く羽ばたいた実直な若鷹
千田輝彦調教師や松田大作騎手に初となるタイトルをプレゼントしたのがタガノアザガル。29戦3勝という戦績ながら、勝ち鞍のひとつはファルコンSでの貴重な重賞勝ちであり、鮮烈なインパクトを残した。
「コースロスなく、インぴったりの荒れていない場所を選んで走らせたジョッキーのファインプレー。止まりかけたところから、もう一段、懸命に脚を使った馬も立派です。じんときましたね」
と、千田トレーナーは感激の瞬間を振り返る。
凱旋門賞をはじめ、G1を5勝したバゴの産駒である。凱旋門賞やパリ大賞典などを制しただけあって、ビッグウィーク(菊花賞)、クロノジェネシス(秋華賞、宝塚記念2回、有馬記念)ら本格派を輩出する一方、クリスマス(函館2歳S)、トータルクラリティ(新潟2歳S)ら、マイル以下の活躍馬も輩出。母ライアメロディー(その父アドマイヤベガ)は未勝利だが、4代母ナタルマ(ノーザンダンサーの母)に連なる名牝系だ。
「1歳で初めて見たときも脚が短く、コンパクトなスタイル。ただ、大人びた性格で、中身もしっかりしていました。2歳5月に栗東へ。ゲート試験もあっという間にクリアしましたし、馬場入りしても真面目な態度を保ったまま。とびきりの優等生なんです」
阪神の芝1400mでデビュー。2着に逃げ粘った。中2週で臨んだ中京の同距離を順当に差し切る。
「先々を見据え、本格的な追い切りを2本消化しただけでレースへ送り出したのに、すっとハナを奪えました。想像以上のスピードやセンスの良さに驚きましたね。手応えほど突き放せなかった初勝利時の内容や、手綱を取った祐一くん(福永騎手)の感触から1200mを2戦。小倉2歳S(6着)、カンナS(5着)と結果は出なかったのですが、いずれ持ち味が生きると思わせました。もともと完成度が高かったとはいえ、伸び盛りのタイミングでしたから」
1400mに戻し、万両賞を競り勝つ。ソエ気味だった脚元が固まり、もたれる傾向も解消。だが、朝日杯FS(10着)に続き、クロッカスS(9着)も直線で後退する。
「厳しい戦いを経てもへこたれず、いい意味で変わらないのが心強かった。道中でリラックスでき、気分良くラップを刻めれば、一変していいと秘かに期待していましたよ」
ファルコンSでは14番人気(単勝78・3倍)まで評価を下げたのだが、深い愛情を注ぐ陣営に特大ホームランで応えた。ここでも果敢な先行策。熾烈な追い比べを渋太く凌ぎ切る。ハナ差の2着がアクティブミノル(函館2歳S、セントウルS)。さらにハナ差でヤマカツエース(金鯱賞2回など重賞を現5勝)が迫ったハイレベルな一戦だった。
全力を尽くした反動なのか、以降は調子を取り戻せず、結局、未勝利。それでも、ファルコンSで運んだうれしいサプライズは、いまでも関係者に勇気を与え続けている。思い出の地、中京競馬場で誘導馬となったタガノアザガル。堂々と後輩たちを先導する姿に、ぜひ注目してほしい。