サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
タガノトネール
【2015年 サマーチャンピオン】灼熱のダートを切り裂く猛々しき稲光
2歳12月、中京の芝2000mで新馬勝ちを収めたタガノトネール。母タガノレヴェントンは未勝利に終わったが、リーディンクサイアーに輝いたキングカメハメハの肌であり、優秀な繁殖成績を誇る。同馬の半弟にタガノエスプレッソ(デイリー杯2歳S、阪神ジャンプS、京都ジャンプS)、タガノディアマンテ(きさらぎ賞2着、ステイヤーズS2着)。近親にヘッドライナー(CBC賞)らも名を連ねるファミリーだ。配された父は、米G1を3勝したケイムホーム。ダート向きのスピードが色濃い血統背景といえた。
鮫島一歩調教師は、こうデビュー当時の状況を振り返る。
「1歳で初対面したときも、たくましい馬体。普段は大人しく、性格面にも好感を抱いていたのですが、乗り始めてからうるささを増し、育成過程で去勢することになったんです。その効果があり、入厩して以来、調教時の操縦に関しては、そう難しさもありませんでしたよ。芝でも走れそうなフットワーク。適性を確かめる意味もあり、まずは長めの距離に送り出しました」
初のレースでは馬込みでも抑えが利き、メンバー中で最速の上がり(3ハロン35秒5)を駆使。ところが、2戦目以降は一気に燃え、どうしても引っかかってしまう。6連敗を喫した。3か月のリフレッシュ後はダートに目を向ける。それでも、なかなかレース運びは安定せず、勝ち上がるのにはさらに6戦を要した。
「追い切りでは一貫してすばらしい動きを見せていただけに、ずいぶん歯がゆい思いをしましたね。ただし、東京のダート1300mでは持ったままで先行でき、あっさり勝利。能力の高さを再認識しましたよ。4歳になってからも、試行錯誤を繰り返しましたが、だんだんレースを覚えてきました」
年明けに再始動すると、しばらくは待機策を試みて結果に結びつかなかったものの、経験を積みながらスイッチの切り替えが上手になってきた。6月の阪神(ダート1400m)を逃げ切り勝ち。熾烈な先行争いに巻き込まれながら、岩室温泉特別も連勝する。
河原町Sで準オープンを卒業するまでに6戦を要したとはいえ、うち5戦が2着だった。京葉Sは流れが忙しく、15着に大敗したが、以降は1400mやマイルで前進。天保山Sを快勝したうえ、初の重賞挑戦となったプロキオンSも4着に健闘する。
圧倒的な人気に推され、サマーチャンピオンで初のタイトルを奪取がかなう。激しい先手争いが繰り広げられたなか、5番手から徐々に進出。直線では2馬身半、後続を引き離す快勝だった。
「押さなくても前へ行ける速力があるうえ、折り合いが容易な条件なら控えても競馬ができるように。ひと回りがっちりし、スタミナやパワーの強化も明らかでした。キャリアを積んで味があり、想像以上の成長力に驚かされましたよ」
いよいよ充実期に突入。南部杯(2着)、武蔵野S(2着)をはじめ、あと一歩のレースが続いたなかでも、重賞での掲示板を堅実に確保。フェブラリーSも6着に食い下がった。
かきつばた記念(4着)、プロキオンS(11着)、サマーチャンピオン(3着)と成績が上下動したことで、武蔵野Sは8番人気(単勝36・6倍)まで評価を下げていた。しかし、すっと2番手に付けられたのに加え、いつも以上に手応えは楽。馬任せにコーナーで先頭に立つと、直線は一気に差を広げる。セフティーリードを保ったまま、長い直線を乗り切り、ゴールドドリーム(2着)らの強豪を完封。タイムは堂々のレコードだった。
久々に猛々しくトネール(フランス語で雷鳴)を轟かせた矢先、悲劇が待ち受けていた。チャンピオンズCを目前にして、調教中に右前を開放骨折。予後不良となった。最後の決戦だとわかっていたかのように、稲妻と化して駆け抜けた姿は、いつまでも目に焼き付いている。