サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
タケミカヅチ
【2009年 ダービー卿チャレンジトロフィー】厄運を跳ね返す雷神の閃光
2歳7月の新潟(芝1600m)でデビューすると、その名(建御雷神、日本神話に登場する雷や剣の神)にふさわしいパフォーマンスを披露したタケミカヅチ。レースの上がりを1秒4も凌ぐ圧倒的な切れ味を爆発させている。
ゴールドアリュールのファーストクロップ。同期に砂戦線で頂点を極めたエスポワールシチー、スマートファルコン、オーロマイスターなどがいる黄金の世代にあって、真っ先に頭角を現したうえ、ターフでの出世が見込まれた貴重な一頭だった。
母カズミハルコマ(その父マルゼンスキー)は芝・ダートを問わずに走り、4勝をマーク。繁殖成績も優秀であり、同馬の半姉にスプリングチケット(6勝、スプリングソングやカレンチャンの母)がいる。
1番人気に推された新潟2歳Sは、脚がたまらずに6着だったが、デイリー杯2歳Sを豪快に追い込んで2着。以降もトップクラスと堂々と渡り合い、東京スポーツ杯2歳S(5着)、シンザン記念(4着)、共同通信杯(2着)、弥生賞(3着)と、堅実に歩んだ。皐月賞も鋭く伸びて2着を確保。距離延長が堪え、ダービーでは11着に終わったものの、重賞制覇は時間の問題かと思われた。
秋緒戦のセントライト記念は9着に敗退。血統のイメージどおり、ダート適性も高かったが、武蔵野S(6着)や師走S(3着)も勝ち切れず、「最強の1勝馬」とのニックネームが定着してしまう。
芝のマイルに照準を定め、4歳時は東京新聞杯(8着)よりスタート。不器用さを抱えながらも、東風Sで2着に前進し、改めて性能の高さをアピールした。単勝は6・7倍の微妙な評価ではあったが、久々となる1番人気を背負い、ダービー卿CTに臨んだ。
絶好のスタートが決まり、好位のインを手応え良く追走する。直線で前が開くと、すっとに反応。きっちり差し切ってゴールへと飛び込んだ。
柴田善臣騎手も晴れやかな笑顔を浮かべる。
「しばらくフレッシュな気持ちになれずにいたが、前走で積極的に運んだことがここへつながった。前目の位置取りでも力まず流れに乗れたよ。直線は少し窮屈になったけど、脚は十分にあったからね。力強く伸びてくれた」
京王杯SCは5着だったとはいえ、スタートで躓いたのがすべて。ラスト3ハロンはメンバー中で最速の末脚(33秒3)を駆使した。ところが、股関節を傷めてしまい、10か月半のブランク。翌年のダービー卿CT(6着)で復帰を果たしたが、スタート後に挟まれる不利を受けた。京王杯SC(8着)、エプソムC(16着)と成績は下降。さらに悲劇に見舞われ、疝痛を発症してしまう。懸命の治療も実らず、この世を去った。
最後まで運に恵まれなかったタケミカヅチの競走生活。それでも、実力で手にした唯一の勲章は、いつまでも神々しい輝きを放ち続けている。