サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ダイワマッジョーレ
【2015年 阪急杯】モーツァルトを愛した堅実なファイター
JRAで33戦を戦いながら、1番人気に推されたのは4回しかなかったダイワマッジョーレ。地味なイメージが付きまとったなかでも、1着が6戦、2着も6走ある堅実派であり、通好みするキャラクターだった。
父はダイワメジャー。サンデーサイレンスの後継ながら、2年連続してJRA賞・最優秀短距離馬に選出されたスピード色が強い遺伝子である。母はアイルランドに生まれ、ランカシャーオークスやイエルバブエナHで重賞を制したファンジカ(その父ローソサイアティ)。同馬の半兄にファイトクラブ(5勝)、ハイアーゲーム(青葉賞、鳴尾記念、ダービー3着)らがいる。
持ち乗りで手がけた甲斐誠調教助手(矢作芳人厩舎)は、こう愛すべき素顔を話してくれる。
「血統背景からも大きな期待を寄せていましたが、2歳12月に入厩したころも、いかにも幼くて。長い目で見たいと思っていましたよ。幅があっても背は低い独特のスタイル。調教でもそう目立たなかったですしね。ただ、手脚は丈夫。性格的に真面目すぎ、気持ちが空回りしがちでも、人に信頼を寄せ、手がかかりません。こちらの要求に応えようと常に懸命です。追えば追うほど伸びる感じ。実戦でも想像以上に味がありました」
3角で弾かれる不利を乗り越え、2月の京都(芝1800m)を新馬勝ち。アーリントンCは出遅れて8着に終わったが、過酷な不良馬場となった山藤賞も2着に食い込む。ひめさゆり賞は前半でかかり気味となったものの、渋太く伸びてハナ差の接戦を凌ぎ切った。
「ひと息入ったラジオNIKKEI賞(6着)では、調教が不足していましたし、ゲートのタイミングが合わなかった。そんななか、終いはよく追い込んでいます(上がり34秒5はメンバー中で最速)。使われた上積みがあり、速いタイムの決着となった五頭連峰特別(1着)を最後までがんばり通してくれた。だんだん折り合いを覚え、レースが上手になっているのがうれしかったですよ」
リフレッシュ明けの秋風S(3着)を経て、甲斐さんが「以前からぜひ勝ちたいと思っていた」という甲斐路Sを快勝。好位でしっかり折り合い、ラスト3ハロン33秒5の切れ味を発揮する文句なしの内容だった。
金鯱賞(2着)、中山金杯(5着)、東京新聞杯(2着)と、重賞戦線に挑んでも、崩れずに健闘。初めて1番人気を背負ったダービー卿CTはクビ差の2着だったが、重賞のタイトルはすぐ目の前にあった。
「ゆっくり成長している途上でしたが、4歳になって張りが出て、だいぶたくましい雰囲気が備わってきました。初の1400mにも対応できると思っていましたし、京王杯SCは自信を持って臨めましたね」
前走で決まらなかったスタートも冷静にこなし、中団で流れに乗る。追わせて味があるだけに、長くトップスピードが持続。坂を上って先頭に踊り出ると、力強く相手をねじ伏せた。
安田記念(9着)はG1の壁に跳ね返されたが、秋になってますます充実。スワンS(2着)に続き、マイルCSも1馬身差の2着でゴールする。しかし、ピークの状態を維持できず、しばらくは期待を裏切ることも多かった。5歳時は阪神Cでの3着が最高着順だった。
6歳になって、最高の(イタリア語でマッジョーレ)パフォーマンスを披露。後方待機から大外を回って息長く脚を伸ばし、阪急杯を差し切る。最後の栄光となった同レースもハナ差の辛勝。甲斐路Sや京王杯SCでのコンマ1秒差が勝利時の最大着差なのが同馬らしい。
「古馬になっても、レースとなればイレ込みがきつかった。物音に敏感なんです。それで、ゲートもなかなか安定しない。落ち着くように配慮して、厩で癒し系の音楽を流してみたら、効果がありましたね。クラシックが好みでも、ベートーベンはダメ。モーツァルトだと、じっと耳を傾けてくれました」
以降は9連敗を喫し、地方・岩手に転出。8歳時に観桜特別に勝ち、さらなる躍進が期待されたものの、続くOROターフ特別で右前を脱臼する重症を負い、天国に旅立った。同馬の健闘を称え、モーツァルトの最後の作品となったレクイエムを捧げたい。