サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ダイシンオレンジ
【2011年 平安ステークス】淀のダートで実を結んだパワフルなシトラス
HBAサマーセール(1歳)にて1450万円で落札されたダイシンオレンジ。2歳11月に庄野靖志厩舎へ移動したころはトモが弱く、スタートダッシュが苦手だった。ようやくゲート試験に合格したのが2月末。新馬戦も終了し、4月の未勝利(阪神の芝2000mを8着)でデビューする。ターフでの3戦は大きく離されてゴール。初勝利は遠いかと思われた。
ところが、想像以上の成長力を秘めていた。3か月ぶりとなった小倉の芝1800mは6着に終わったとはいえ、追い切りの反応がぐっと良化。ラストチャンスとなる未勝利戦に阪神のダート1800mを選択すると、2番手からあっさり抜け出し、4馬身差の快勝を収める。
芝・ダートを問わずに走り、海外でも香港Cを制したアグネスデジタルが父。母アシヤマダム(その父ラシアンルーブル)は未勝利だが、同馬の半兄にブイロッキー(3勝、ユニコーンSを2着、名古屋優駿3着)らがいて、やはり砂適性が高い遺伝子を受け継いでいた。
昇級の壁もなかった。4か月間、英気を養い、1月の京都(ダート1800m)も連勝。大津特別(3着)を経て、3月の阪神(ダート1800m)で3勝目をマークした。
上賀茂S(3着)、名古屋城S(10着)、鷹取特別(5着)と成績は上下したものの、安定した先行力を駆使。夏場のリフレッシュ後も堅実に前進する。京都のダート1800mを2着、1着。ゴールデンスパーT(8着)こそ伸び切れなかったが、ますますパワーアップされ、初夢Sを勝ってオープン入りを果たす。
初挑戦となった重賞、平安Sでも半馬身差の2着に食い下がった。大切に素質を磨いてきた陣営の努力が実ったのがアンタレスS。いつもより後ろめの位置取りとなったが、追い出しを待つ余裕があった。鮮やかな差し切りを決める。
「自分のリズムを守った結果。前がやり合ってくれ、ちょうどいいペースだった。期待通りの伸び。それにしても強かったね」
と、主戦の川田将雅騎手は、こう晴れやかな笑顔を浮かべた。
秋の再スタート後はみやこS(11着)、JCダート(8着)と振るわなかったが、冬場に調子を上げるのが同馬のパターン。さらに攻めを強化できた。
そして、平安Sで2つ目のタイトルを奪取する。正攻法のかたちで運び、早めに先頭へ。息の入らないペースだったが、ぎりぎり待機勢の強襲を退けた。
「京都コースとの相性は抜群だし、調子も絶好。負けられないと思っていたんだ。向正面から他馬に来られ、決して楽ではなかったのに、よく踏ん張り通してくれた。いつも一生懸命。ほんと頭が下がるよ」(川田騎手)
結局、これがピーク。それでも、7歳時の名古屋大賞典(2着)、翌年の同レース(3着)をはじめ、大崩れせずに健闘を重ねる。
ラストランは思い出の平安S(14着)。新冠タガノファームで種牡馬となった。わずか3シーズンの供用だったのに加え、生産頭数も3、1、2頭と極めて少なかったのにもかかわらず、ダイシンステルラ、ダイシンイナリがJRAで勝利を挙げた。ダイシンステルラは繁殖入りし、後世へ貴重な血脈を伝えていく。ぜひミラクルな結実を期待したい。