サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
トーセンスターダム
【2014年 チャレンジカップ】ワンターンで煌めくスターの資質
セレクトセール(1歳)にて2億5000万円もの高額で落札されたトーセンスターダム。父は稀代のスターホースであり、スタリオン入りしてからも史上最速のスピードで勝ち鞍を量産したディープインパクトである。母アドマイヤキラメキ(その父エンドスウィープ)は4勝をマーク。その半弟にトーセンジョーダン(天皇賞・秋など重賞を4勝)、トーセンホマレボシ(京都新聞杯、ダービー3着)らがいる豪華な血脈だ。
池江泰寿調教師は、出会った瞬間のインパクトをこう話してくれる。
「ディープらしさに母系の特徴も加味。セールの下見で繰り返し見ましたが、その都度、魅力が際立ってくる。クビ差しがしなやかで胴も長く、スケールの大きさが伝わってきましたね」
若駒当時は落ち着きがあり、手がかからなかった。ノーザンファーム早来で順調に乗り込まれ、6月末に函館競馬場に入厩した。ただし、慎重に手順を踏み、ゲート試験の合格後は放牧を挟み、秋のデビューに備えた。栗東に移動すると、1か月弱でデビュー戦を迎える。
「しっかり追い切ったのはレース直前の1本だけ。跨った誰もが乗り味を評価していても、派手に動ける態勢にはなかったですよ。初戦から走れる血統ではありませんし、ジョーダンらと同様、ひと叩きが必要だろうと見ていました」
秘めたセンスは想像以上だった。10月の京都(芝1800m)で新馬勝ちを飾る。すっと2番手に付け、逃げ馬を競り落とした。京都2歳Sでは出遅れて後方に置かれたが、大外一気に鮮やかな末脚を駆使。先行勢に有利な展開を跳ね除けてしまった。
「先々を考え、あえてジョッキー(武豊騎手)はためる競馬を試みたのですが、あっさりクリアしてくれました。反動が残り、使い込めない状況でしたので、いったんノーザンファームしがらきへ放牧。その効果があり、安定した心身で次のステップへ向えましたよ」
ゴール前で図ったように差し切りを決め、きさらぎ賞に優勝。無傷の3連勝でスター街道を突き進む。
「ゲートの駐立に課題が残りましたし、まだまだ体幹が定まらず、勝負どころでバランスを崩すシーンもありました。そんななか、勝ち切ったあたりは非凡な才能の証明です」
クラシックへの夢が大きくふくらんだものの、徐々に気難しさが顔をのぞかせる。皐月賞は11着。ダービーは直線でラチに接触してしまい、16着に終わる。神戸新聞杯は7着、菊花賞も8着に敗退した。
改めて確かなポテンシャルを誇示したのがチャレンジC。後方待機から直線勝負に出て、鮮やかに馬群を割った。
「脚長のスタイルで、以前は背腰の甘さが目立ちましたが、だんだん疲れがたまりにくくなってきました。コーナー2つの形態なら、内面の激しさをコントロールしやすいんです。素材はG1レベルだと自信を深めました。守備範囲も広げていけると見ていたのですが」
翌春にはオーストラリアへ遠征し、ランヴェットS(2着)、クイーンエリザベスS(5着)に挑んだ。宝塚記念(12着)、毎日王冠(5着)を経て、カシオペアSでは格の違いを見せ付けて勝利。だが、マイルCS(7着)、京都金杯(10着)、東京新聞杯(9着)と、消化不良のレースが続いた。
2度目となるオーストラリアでの調整中、鼻出血を発症してしまい、現地へ移籍することに。LKSマッキノンS、MRCトゥーラクHと2つのG1タイトルを手にしたうえ、ウッドサイドパークスタッドで種牡馬入りした。日本を代表する良血の2世たちが、海外のターフで栄光をつかむのを楽しみに待っている。