サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

トウケイヘイロー

【2013年 函館記念】盛夏のターフに全開する強靭なスピード

 強靭な先行力を武器に、2013年サマー2000シリーズのチャンピオンに君臨したトウケイヘイロー。清水久詞調教師は、こう幸運な出会いを振り返る。

「初対面したのは2歳の春でしたが、日高軽種馬共同育成公社で順調に乗り込みが進み、軽快な動きを評価されていました。すでに大人びた雰囲気。たくましいスタイルをしていて、中身も詰まっていましたからね。6月の入厩後はスムーズに出走へ。もともと身体能力には自信を持っていました」

 サンデーサイレンスの後継ながら、大井競馬で競走生活を送り、産駒も地方での良績が目立つゴールドヘイローの代表格。母ダンスクィーン(その父ミルジョージ)も大井で1勝をマークした。その半妹にクインオブクイン(地方12勝、クイーン賞2着)などもいて、ダート色が濃い配合だが、曽祖母ファンシミン(ダイナシュートやダイナフェアリーの祖母)に連なる名牝系である。

 7月の新潟(芝1400m)で新馬勝ち。新潟2歳S(7着)、カンナS(3着)を経て、くるみ賞ではレコードタイムの快勝を収めた。早めにハミを噛んだ朝日杯FSでも4着を確保。確かな素質を示す。ところが、シンザン記念(4着)以降は折り合い面の難しさに泣き、ファルコンS(10着)、マーガレットS(3着)、橘S(11着)と人気を裏切った。

「普段は本当に大人しく、無駄な体力を使いません。追い日をわかっていて、自ら体をつくってしまう。ただ、レースへいくと真面目すぎて、流れに合わせて力を出せないんです」

 一息入れた後、火打山特別で3勝目を挙げる。長岡Sも2着したものの、ここで左ヒザに剥離骨折を発症。7か月間、実戦から遠ざかった。
「結果的にいい休みとなり、成長を促すことができました。それでも、操縦性には危うさが残っていましたよ」

 武庫川Sを快勝して勢いに乗り、ダービー卿チャレンジトロフィーも4角先頭から押し切る。馬任せに逃げた京王杯SCだったが、直線で後退して8着に終わった。

「安田記念へのエントリーがかなわず、目を向けた鳴尾記念。距離延長を心配していたのに、あっさりと逃げ切ってしまった。ハナを奪ってからはスローでも脚がためられ、いったん引き付けて差を広げる危なげない内容。その後につながる最高の結果が出ましたね。馬はわからない、簡単に決め付けてはいけないと、改めて思います」

 トップハンデ(57・5キロ)を背負いながら、函館記念も鮮やかに連勝。馬なりでハナに立つと、絶妙のペースで折り合い、ラスト2ハロン目に11秒6までスピードアップ。一気に後続を突き放す。コンマ3秒の差を保ったまま、悠々とゴール板を駆け抜けた。

「タフな体質なうえ、夏場を涼しい函館で調整したこともあり、満足いく仕上げが施せました。すっかりレーススタイルも確立。自分のリズムで競馬ができさえすれば、ここも勝てると信じていましたね。それにしても、まったく危なげのないパフォーマンス。驚きの連続でした」

 さらに、札幌記念では持ったままで後続を置き去りにし、6馬身差の圧勝劇を演じた。過酷な重馬場もまったく苦にしないのが、同馬のスペシャルな才能である。

 次のターゲットはG1。天皇賞・秋でも2番人気に推されたが、他馬のマークはきつく、直線で10着に沈んだ。だが、香港Cは堂々の2着。世界へ向けても性能をアピールする。

 中山記念(6着)は出遅れが響いた結果。ドバイデューティーフリー(7着)、シンガポール航空インターナショナルC(4着)と、海外の大舞台でも果敢にハナを奪う。

 5歳時の札幌記念(11着)は、ハイペースに粘れなかった。レース後に屈腱炎の症状が見られ、9か月間の休養へ。以降に4戦したが、闘志は蘇らない。シリウスS(8着)で炎症が再発。アロースタッド種牡馬入りした。

 全盛期は短かったとはいえ、圧巻の強さで観衆を魅了したトウケイヘイロー。年々、需要は減少し、2023年シーズンで供用を終了した。それでも、その猛々しいパフォーマンスは、いまでも鮮烈なインパクトを伴って蘇ってくる。