サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
トーセンホマレボシ
【2012年 京都新聞杯】気品あるボディーと強靭な精神力を兼ね備えた希望の星
2012年の京都新聞杯を2分10秒0の日本レコードで駆け抜けたトーセンホマレボシ。息の入らない流れを果敢に2番手で追走し、早め先頭から2着に2馬身半差を付ける圧倒的な内容だった。
池江泰寿調教師は、価値ある一戦をこう振り返る。
「ダービーへ進むために、きっちり勝たなければならない舞台。キャリアを積むごとに無駄肉が削がれ、動ける態勢にありました。それでも、中間にリフレッシュを挟み、まだまだ上積みが見込める段階でしたよ。急に強くなったわけではなく、もともと秘めていた能力が噛み合った結果です」
稀代のスーパーホースであり、スタリオン入り後も史上最速のスピードで勝ち鞍を量産したディープインパクトが父。セレクトセール(当歳)にて、1億5500万円の値が付いたエリートである。
「セールの下見では、この馬しかいないと惚れ込みましたね。ディープと比べれば、たくましいスタイル。ただし、長所はストレートに伝わっている。歩かせるとバネがあるうえ、とてもしなやかなんです。半兄のトーセンジョーダンとも外見は異なり、品の良さははるかに上。兄が裂蹄でクラシックを棒に振った直後だったのに、落札されてすぐオーナーから声をかけてもらえた。なんとしても走らせたいと、期するものがありましたよ」
母エヴリウィスパー(その父ノーザンテースト)は未勝利だが、祖母クラフテイワイフの産駒は60勝近くをマークしている一大牝系。カンパニー、レニングラード、ヒストリカルらも、この活力あるファミリーの出身だ。
「ノーザンファーム早来での育成は順調でしたが、大型ゆえに緩さも目立ちました。NFしがらきを経由し、11月に入厩。そう攻めずにデビューさせ、2着を2回続けたとはいえ、実戦を使って良さが出たのはジョーダンと同様です。小倉(2月5日、芝2000m)での勝ち方は目を見張るものがありました。前残りの展開を苦しいポジションから大外一気。レースの上がりを1秒も上回る脚を使っています」
ゆきやなぎ賞(5着)は直線での不利が響いたもの。大寒桜賞は半馬身差の辛勝だったが、同馬には不向きな力が要る馬場だった。
「自在性があり、長くいい脚が持続するのも兄と共通する特徴ですね。それに、強靭な精神力も」
大目標のダービーでもハイペースを2番手で追走し、3着に健闘。京都新聞杯に続いて手綱を取ったクレイグ・ウィリアムズ騎手も、胸を張って才能を称えた。
「負けはしたが、晴れ晴れとした気持ち。厳しい展開となったのに、よく粘っているからね。勝ち馬に斜行され、脚を取られる場面もあった。非凡なポテンシャルは疑いようがなく、将来が楽しみだよ」
天皇賞・秋を驚異のレコードで制したトーセンジョーダンを凌ぐスピードで進化を遂げたトーセンホマレボシ。その行く手には輝かしい未来が待っているはずだった。ところが、成長途上で全力を尽くしたダメージは大きかった。右前脚に屈腱炎を発症。秋シーズンを前にして、種牡馬入りが決定する。
年々、産駒は減少傾向にあるが、誉れ高き傑作にミッキースワロー(セントライト記念、七夕賞、日経賞)がいて、後継サイアーとなった。未来のターフに輝きを放つ新星の登場を期待したい。