サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

トーセンレーヴ

【2012年 エプソムカップ】次世代へと受け継がれる壮大な夢

 セレクトセール(08年当歳)にて最高価格となる2億2000万円で落札されたトーセンレーヴ。マルセリーナ(桜花賞)を皮切りに4頭のG1ウイナーが登場したディープインパクトのファーストクロップにあっても、当初から破格の「レーヴ」(フランス語で夢)が託された逸材だった。

 母ビワハイジ(その父カーリアン)は競走馬として2歳牝馬チャンピオン(当時の阪神3歳牝馬Sに優勝)に輝いただけでなく、繁殖としても超一流。同馬の半姉にブエナビスタ(ジャパンCなどG1を6勝)がいる。

「成長段階では一度もラインが崩れず、いつ見ても垢抜けたスタイル。ノーザンファーム早来での育成時から、いかにもディープ産駒らしいバネの利いたフォームで駆け抜けていましたよ。加速すれば、ぐっと重心が沈み込む。この母系だけに、走らないことは考えにくかった。ブエナビスタもそうでしたし、他の兄姉妹たち(アドマイヤジャパン、アドマイヤオーラ、ジョワドヴィーヴル、 サングレアル)と同様、コツコツ見える歩様でも、背中が柔らかいんです。立派な馬格に恵まれたうえ、父のデビュー当時より気性もしっかりしていました」
 と、池江泰寿調教師は若駒当時を振り返る。

 9月に栗東へ移動。ゲート試験は3回目での合格だったが、気持ちに余裕がありすぎ、ゲートを出ると、遊んで尻っぱねをするくせがあってのこと。ただし、自身の右トモで右前の蹄をぶつけるアクシデントがあり、いったんNFしがらきで態勢を整え直す。
 3歳2月、京都の芝1800mで新馬勝ち。アルメリア賞も好位から楽々と抜け出した。

「いろいろ教えたいところでも、これだけの器ならダービー出走は必然の夢。余裕のないローテーションを踏みました。毎日杯(3着)、青葉賞(3着)では少しエキサイトしましたが、もともと頭がいい馬。十分に修正していけると見ていましたしね」

 連闘でプリンシパルSを勝ち切り、ダービー(9着)へも駒を進めた。秋緒戦のアイルランドTを順当に突破。しかし、以降は慎重な調整を強いられる。

「持っている能力は間違いなくトップクラスでしたよ。でも、あまりにレベルが高く、体が付いてこない状況。十分に間隔を開けても、心房細動やトモの筋肉痛に悩まされました」

 アメリカJCCは5着。ワンターンのコース形態が合うと判断し、洛陽Sに臨むと、抜群の末脚で差し切りを決めた。マイラーズS(8着)は不発に終わったものの、単勝1番人気を背負い、エプソムCへと挑む。

 行きたがるのをなだめ、3番手に付ける。直線は逃げ馬が失速し、早めに押し出されるかたちになった。あっという間にセフティーリードを保つ。ゴール前でダノンシャークが猛追してきたが、堂々と退け、ついに念願のタイトルを奪取する。

 騎乗したクレイグ・ウィリアムズ騎手は、こう安堵の笑みを浮かべた。
「スタートが良すぎ、どうしようかと思ったところで、馬の後ろに入れて折り合えた。じっと追い出しを待てたが、ストレートが長く、タフなコース。早くゴールが来てくれって、ひたすら願っていたね。1年前のダービーでも跨り、とても愛着があったし、すばらしい才能も実感していた。ようやく結果を残せ、喜びは格別だよ」

 不完全燃焼が続き、結局、手にした重賞の勲章はひとつだけ。それでも、7歳になって、アンドロメダS、ディセンバーSに連勝するなど、長きに渡って存在感を示した。思い出のエプソムC(17着)がラストラン。エスティファームで種牡馬となった。

 産駒は希少だが、卓越した身体能力を垣間見せたうえ、魅力あふれる血統背景だけに、一発長打の可能性は十分である。果たせなかったレーヴは、次世代へと受け継がれていく。