サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

トーセンジョーダン

【2011年 天皇賞・秋】高速ターフを凌駕したパワフルなヒーロー

 2011年の天皇賞・秋は、日本レコードとなる1分56秒1がマークされたハイペース。直線で力強い伸び脚を繰り出し、後続の猛追を凌いだのがトーセンジョーダンである。管理する池江泰寿調教師は、こう驚きの表情を浮かべた。

「こんなこともあるのかと、菊花賞(前週にオルフェーヴルで制覇)とはまったく別の感情でゴールを見つめていましたね。
 スタートでいいポジションが取れず、これは苦しいと見ていました。ただ、流れは速く、これならばチャンスがあるかもしれないと思い直しましたよ。待機勢も脚を使わされたなか、豊富なスタミナがプラスに働きました。
 それにしても、実力馬のダークシャドウ(2着)やブエナビスタ(4着)らを交せるとは。トゥザグローリー(5着)と管理馬同士のワンツーもありそうなシーンがあり、興奮しましたね。
 出世が遅れてしまいましたが、もともとクラシック候補と見ていた馬。ずっとトップクラスだと信じていました。ここで能力を証明できてうれしいですよ」

 セレクトセール(1歳)にて1億7000万円もの高額で落札。ジャガーメイル(天皇賞・春)、クィーンスプマンテ(エリザベス女王杯)、オウケンブルースリ(菊花賞)、トールポピー(オークス、阪神JF)、アウォーディー(JBCクラシック)などを送り出したジャングルポケットの産駒である。

 母のエヴリウィスパー(その父ノーザンテースト)は未勝利だが、祖母クラフテイワイフに連なる活力にあふれる血脈。カンパニー(天皇賞・秋、マイルCS)、タスティエーラ(ダービー)もこのファミリーの出身であり、同馬の姉兄にはアドマイヤキラメキ(4勝、トーセンスターダムの母)、ダークメッセージ(5勝、日経新春杯2着)、ケアレスウィスパー(3勝、関東オークス2着)などがいる。半弟にトーセンホマレボシ(3勝、京都新聞杯)。そうそうたる素質馬が育成されるノーザンファーム早来でも、評判の一頭だった。

「オーナーから声がかかり、預託が決まったのは2歳の春だったのですが、セールの下見で見惚れた記憶がはっきりと残っていました。父の仔にしてはひ弱さがなく、当時から馬っぷりが抜けていましたからね」

 2歳の9月にはトレーナーのもとへ。ただし、当初はなかなか走る気を見せず、やきもきさせられたという。

「象みたいな雰囲気で、時計が出ない。やはり新馬(11月の京都、芝2000mを6着)は結果が出ず、思い切って中1週で福島(芝2000m)へ運びました。輸送で絞り、刺激を与えたかったんです」

 狙い通りに初勝利を飾ると、葉牡丹賞も連勝。勢いに乗り、ホープフルSへと駒を進めた。後続に2馬身半の差を付ける完勝。一躍、スター候補に踊り出た。

「葉牡丹賞は美浦経由での輸送でした。関東への遠征が続き、少し筋肉が落ちていましたが、気性面は一戦ごとに充実。難なくオープンを勝てました。共同通信杯(2着)は不向きな切れ味勝負。直線で窮屈になりながらも、懸命に盛り返しています。しかも、上がってきたときには、右前の爪から血を吹いていました。あのシーンは忘れられませんし、大切なシーズンを棒に振ったぶんも、復帰後に期するものがありましたよ」

 9か月間のブランクを経て、アンドロメダS(2着)より始動。だが、中日新聞杯(4着)を走り終え、再び蹄壁に亀裂が入ってしまった。翌夏の漁火Sで久々の勝利。アイルランドT、アルゼンチン共和国杯と連勝を飾り、有馬記念(5着)へも駒を進めた。

 5歳になってアメリカJCCを快勝する。しかし、右腕の筋肉痛で阪神大賞典を取り消すアクシデント。間隔が開いた影響で、宝塚記念は9着に終わったが、この一戦を境にまたひと皮むける。

 勝負の秋を見据え、札幌記念は帰厩して10日間の慌しい仕上げ。それでも、格の違いを見せ付ける。道中の手応えはひと息に映ったが、好位からきっちり抜け出した。着差はハナでも、底力を再認識させるパフォーマンスだった。

「天皇賞・秋に向けて、より走れる態勢が整いました。以前は蹄に配慮し、調教をセーブせざるを得ませんでしたが、あのころは思う存分、攻められましたからね。でも、3戦くらい使っていくと動けるようになるタイプ。本領発揮の場は、距離が伸びるジャパンCや有馬記念と見ていたのに」

 ジャパンCもクビ差の2着に健闘。有馬記念は5着に敗れたとはいえ、見せ場がたっぷりあった。翌春は大阪杯(3着)をステップに天皇賞・春(2着)へ。ところが、また裂蹄を発症する。7歳時のジャパンCで3着に食い込んだのが最後の輝きだった。昨年のジャパンC(14着)まで走ったところでスタリオン入りが決まった。

 JRAでの重賞ウイナーを輩出できず、産駒は減少傾向にあるが、度重なるアクシデントを不屈の闘志で跳ね返し、超一流のポテンシャルを示したトーセンジョーダン。父の魅力を受け継いだ大物の登場を心待ちにしている。