サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

トウカイミステリー

【2011年 北九州記念】スピード王国の黄金期を彩る爽快な一撃

 2024年に惜しまれつつ定年を迎えるまで、通算59勝ものJRA重賞を手にした安田隆行調教師。トップトレーナーの地位を確固たるものとしたのが2011年であり、11勝のタイトルを獲得している。トランセンドによる3つのダートG1(フェブラリーS、南部杯、JCダート)以外は短距離路線でマーク。スプリンターズSで頂点を極めたカレンチャンが、他にも3つの重賞を制覇した。ダッシャーゴーゴーも、オーシャンSやCBC賞に勝ち、改めて非凡なスピードを誇示している。後に国内のG1に4勝したうえ、香港スプリントを連覇して世界へも名を轟かせたロードカナロアが、京阪杯で初の重賞を手にしたのも同年だった。

 そんなスピード王国の黄金期にあって、トウカイミステリーも北九州記念では重賞ウイナーの仲間入りを果たした。騎手時代は小倉開催で抜群の好成績を誇った安田調教師だが、北九州記念だけは勝てなかっただけに、喜びはひとしおだったという。

「トレーナーになったら、絶対に獲ってやろうと狙っていたレース。しかも、ダービーを勝たせてもらったトウカイテイオーと同じオーナーの馬で念願が叶ったわけです。恩返しができ、胸が熱くなりましたよ」

 セレクトセール(当歳)にて安田師が見初め、1200万円で落札された同馬。2010年、11年と2年連続でチャンピオンサイアーとなったキングカメハメハの産駒である。母タイキミステリー(その父グリーンフォレスト)は未勝利だが、その兄姉にクロフネミステリー(6勝)、タイキパイソン(7勝)ら。同馬の姉兄にもタイキメビウス(4勝、アイビスサマーダッシュ3着)、ナムラビッグタイム(4勝、地方11勝、ニュージーランドT3着、ファルコンS3着)がいる優秀な血筋だ。

 2歳9月に栗東へ移動した当初より垢抜けた好バランスを誇り、調教も動いたものの、体質や気性はデリケート。折り合いの難しさに配慮してダートの短距離に目を向け、年明けの京都(ダート1200m)で初勝利を収めた。6月の札幌(ダート1000m)を勝ち上がったが、なかなか成績は安定しない。

 だが、陣営は素質を信じ、丁寧に操縦性の矯正を図っていく。それが実を結んだのが、4歳3月の鈴鹿特別。芝で末脚を生かせたことで、一気に視界が開けた。北海道シリーズで長万部特別、札幌日刊スポーツ杯と連勝する。

 シャドーロールやチークピーシーズを着用させても、しばらくは不発が続き、オープン入り後の5戦ではオーストラリアTでの5着が最高着順。北九州記念は52キロのハンデでも、単勝17・0倍の8番人気にすぎなかった。それでも、夏場は得意。輸送が苦手だけに、滞在で臨めるのもプラスだった。前週に小倉に移動し、直前の追い切りは矢のような伸び脚を披露していた。

 2ハロン目から10秒0、10秒6、11秒1とハイラップが刻まれるなか、後方でマイペースを貫く。コースロスを避けながらも、楽にポジションを上げた。直線入り口で開けたスペースを目がけて一気にスパート。小倉の直線は短く、先行勢も粘ったが、半馬身の差を付けてゴールに飛び込んだ。ラスト3ハロンは33秒6。次位をコンマ4秒も凌ぐ圧倒的なものだった。

 スプリンターズS(9着)に続き、高松宮記念(8着)でも優勝したカレンチャンの引き立て役に甘んじたとはいえ、懸命に脚を伸ばしたうえ、6歳春に繁殖入りした。トウカイレーヌ(3勝)、トウカイエトワール(4勝、地方3勝)をはじめ、産駒はコンスタントに活躍。そろそろ母の名を高める大物が登場しそうな予感がする。