サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
トゥザワールド
【2014年 弥生賞】ワールドワイドな成功を夢みて
トゥザワールドの母は、エリザベス女王杯でG1を制しただけでなく、ドバイワールドCでの2着が燦然と輝くトゥザヴィクトリー(その父サンデーサイレンス)。池江泰寿調教師が助手時代に深い愛情を注いだ名牝である。
「この母系だけに馬格があり、迫力も十分。ただし、全兄のトゥザグローリー(京都記念、日経賞など重賞を5勝、有馬記念の3着が2回)よりまとまったサイズです。1歳時に依頼を受けた当時でも、整ったバランスにうっとりさせられましたね。品の良さはトゥザヴィクトリー譲り。追い出したときの頭の高さもよく似ています。古馬になって本格化する血筋なのに、使おうと思えば夏にもデビューできたほど、順調に育ちました」
04年のNHKマイルC、ダービーで変則2冠を制したキングカメハメハが配されて誕生。もともと大きな夢を託され、キャロットクラブにて総額1億円で募集された。
ノーザンファーム早来でも、週3回のペースでハロン15秒程度のスピードメニューを消化したうえ、2歳6月に函館競馬場へ。ゲート試験をパスすると、いったん放牧に出て心身を整え直した。函館を経由し、8月末に栗東へ移動すると、ひと追いごとに上昇を示す。
9月の阪神(芝1800m)で迎えた新馬は、マイペースに持ち込んだバンドワゴンの2着に敗れたとはいえ、初めての実戦に戸惑い、外に逃げる面を見せていた。学習能力は優秀で、以降は卓越したレースセンスを発揮する。京都の未勝利(芝1800m)、黄菊賞とも、好位より抜け出す危なげない勝ち方だった。
ひと回りたくましくなり、プラス14キロの体重で臨んだ若駒S。先々を見据え、前半は控える戦法を取ったが、スローの決め手比べをあっさり差し切った。
「3戦とも楽に抜け出す好内容。安心して見ていられました。完成度が高く、性格も大人びている。きちんとコントロールが利き、自在に動けます。レコード勝ち(黄菊賞)がある一方、タフな馬場をこなせるパワーも兼ね備えている。中間にノーザンファームしがらきでの放牧を挟み、またぐんと良化。経験を積みながら、着実に進歩していいるうえ、このファミリーならではの奥深さを実感していました」
弥生賞まで4連勝で突き進む。固まった馬群の外から早めに動かざるを得ないかたちになり、最後はワンアンドオンリーにハナ差まで詰め寄られたものの、押し切ったことに価値があった。初となる中山コースや関東圏への輸送も克服。収穫が多い試走となった。
だが、皐月賞で待ち構えていたのがイスラボニータ。好位を伸びたものの、2着に敗れた。後方からの競馬となったダービーは、スムーズに先行したワンアンドオンリーが優勝。不完全燃焼の5着だった。
セントライト記念も、イスラボニータの2着だった。距離延長が堪え、菊花賞は16着に大敗。それでも、有馬記念で2着に巻き返す。勝ったジャンティルドンナを上回るラスト33秒8の末脚を駆使し、翌年の戴冠に夢をつなげた。
海外へも積極的に遠征を重ねているステーブル。4歳時はオーストラリア・シドニー地区で開催される「オータムカーニバル」(現地は秋のハイシーズン)に的を絞った。1番人気に推されたBMWは惜しくも2着。だが、過酷な重馬場に泣き、クイーンエリザベスSは12着に敗退する。残念ながら、右前に屈腱炎を発症。このままターフを去ることとなった。
優駿スタリオンステーションで種牡馬入りしたが、目立った活躍馬を送り出せず、2023年シーズンで引退。乗馬として静かに余生を送っている。自身の産駒でも世界制覇の夢は果たせなかったが、一族の血筋は豪華に繁栄。トゥザヴィクトリーが果たせなかった悲願も、いずれかなえられると信じたい。