サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
トレイルブレイザー
【2012年 京都記念】世界を旅した新時代のパイオニア
果敢に海外へも挑み、香港ヴァーズ(6着)、アロヨセコマイル(2着)、BCターフ(4着)、マクトゥームチャレンジラウンド3(10着)、ドバイシーマC(11着)と健闘したトレイルブレイザー。
父はゼンノロブロイ。サンデーサイレンスの後継ながら、パワーやスタミナに優れた産駒が多く、大レース向きの底力にも富む。サンテミリオン(オークス)、マグニフィカ(ジャパンダートダービー)らとともにファーストクロップの代表格となった。
母リリオ(その父フォーティナイナー)は1勝のみに終わったが、シーロ(リュパン賞、セクレタリアトSなど仏米でG1を3勝)の半姉。ヘクタープロテクター(仏2000ギニーなどG1を5勝)、シャンハイ(仏2000ギニー)らが祖母の半兄に名を連ねる良血である。
2歳9月、新潟の芝1800mで新馬勝ち。ただし、まだ脚元が固まらず、体質的にも弱さが目立った。9か月間のブランクを経て、復帰後は徐々に上昇。翌春の京都、芝2000mで2勝目を挙げる。さらに休養を挟み、玄海特別に3着。九十九里特別を渋太く差し切って、菊花賞(8着)へも駒を進めた。
しばらくはレース運びが安定しなかったものの、使われながら充実していく。4歳5月に烏丸Sを勝ち切ったころになると、硬くなりがちだった身のこなしもぐっとスムーズに。目黒記念(4着)、宝塚記念(8着)でも見せ場をつくった。
秋緒戦の古都Sはハナ差の惜敗。それでも、使われた上積みは大きかった。アルゼンチン共和国杯へ。好位をリズム良く進み、直線はあっさり抜け出す。もう強さは本物。ジャパンCでも4着に食い込み、香港ヴァーズへと旅立った。
国内でのベストパフォーマンスが帰国緒戦の京都記念。離して先行する2頭を見ながら、好位を進む。後続が接近するのを待ち、4コーナー手前で一気に先頭に躍り出ると、差を広げたままでゴールへと邁進。2馬身差の快勝を収めた。騎乗した武豊騎手は、こう満足げに笑顔を浮かべる。
「好スタートを切れ、思い描いたレースができた。坂の下りで自らハミを取ってくれたので、逆らわずに行かせただけ。手応え通りに伸び、最後まで危なげなかったよ。初めて乗ったジャパンCでもスケールの大きさを感じ取っていたけれど、ますます力を付けている」
だが、以降は鼻出血に悩まされた。この年のドバイ遠征は中止。目黒記念(9着)時も体調は戻らなかった。そんななか、鼻出血の予防効果があるラシックスが使用できるアメリカへの参戦が構想され、好結果に結びついた。
6歳シーズンはドバイにも渡る。七夕賞で2着に食い込み、改めて性能をアピール。しかし、結局、以前の輝きは取り戻せず、翌春の日経賞(15着)を走り終えると引退が決まった。
一時の勢いを考えれば、晩年の成績は物足りないとはいえ、馬名(先駆者との意)のとおり、日本競馬の将来につながる足跡を残したトレイルブレイザー。4か国で夢を追いかけた偉大なチャレンジャーだった。