サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

トランスワープ

【2012年 新潟記念】光速ワープで勝ち取ったサマーチャンピオンの称号

 カルティエ賞全欧最優秀古馬に輝いただけでなく、ジャパンCや香港Cも制したファルブラヴ。JRAで7頭の重賞ウイナーを誕生させたが、うち5頭が牝である、勝ち気な性格を伝えるため、大型の牡馬となればコントロールの難しさに泣くケースが多く、トランスワープは貴重な本格派だった。

 母ボンヌシャンス(その父リアルシャダイ)はダートで1勝。同馬の半兄にアメリカJCCや毎日杯を2着したインテレットがいる。マッチポイント(マイルCSに勝ったトウカイポイントの母)、マクリス(3勝)らを産んだ祖母マックホープ(4勝)に連なるファミリー。キャロットクラブにて総額2600万円で募集された。

 飛節や蹄などのトラブルがあり、デビューにこぎ着けたのは3歳の6月(東京のダート1300mを3着)。3走目となった新潟のダート1200mを勝ち上がると、7か月半のリフレッシュを挟む。1度使われて一変し、3月の中山(ダート1800m)を鮮やかに逃げ切った。

 以降は芝に目を向け、稲村ヶ崎特別を勝利した。だが、きつくハミを噛む傾向にあり、依然として粗削り。4歳シーズンを終え、休養に入ったものの、なかなか疲れが癒えなかった。結局、1年6か月ものブランク。この間に去勢手術を施す。

 丁寧にケアされた効果が表れ、成績はぐっと安定する。明け7歳となり、中山の芝2000mで1000万下を卒業。続くアメジストSも連勝した。福島民報杯(8着)は期待に反したが、出遅れた福島テレビオープン(3着)でイメージを一新する切れを発揮。これが次走につながる。

 ハイラップが刻まれた函館記念。前半は行きたがる面を見せたが、中団の内目に入れ、しっかり脚をためることができた。勝負どころでも手応えは十分。直線であっさり馬群を割り、ついに重賞制覇を成し遂げる。

 勢いに乗り、新潟記念へ。木曜には新潟競馬場に輸送して、気持ちを静めたのが功を奏し、課題のゲートをクリアする。中団のインで折り合いに専念。直線で外へ持ち出されると、レースのラスト3ハロンをコンマ8秒も凌ぐ上がり(32秒3)を駆使して、きっちりと差し切りを決めた。みごとに重賞連勝を果たし、サマー2000シリーズのチャンピオンの座を手中に収める。

「スローな流れでも、じっと我慢が利きました。道中の手応えは抜群。イメージ通り、エンジンがかかってからの勢いがすごかったですね。ますますパワーアップしているうえ、以前よりも集中力が高まり、瞬発力勝負にも対応。これまで大事に育ててきた成果でしょう」
 と、大野拓弥騎手も晴れやかな笑顔を浮かべた。

 天皇賞・秋は17着に敗退したが、きちんと態勢を整え直し、アメリカJCC(2着)で反撃。勝ち馬に寄られ、いったん下げざるを得なかった結果である。これで張りつめた気持ちが途切れたのか、以降は不本意な走りを繰り返した。9歳時の新潟記念(16着)がラストラン。左前の繋靭帯を不全断裂する重傷を負っていた。幸い命に別状はなく、ノーザンファーム天栄での繋養を経て、功労馬となった。

 陣営の深い愛情に後押しされ、年齢を重ねるごとに強さを増したトランスワープ(ワープ航法を超越した夢の移動手段の意)。まぶしい日差しが降り注ぐ新潟のターフを眺めていると、圧巻の光速ワープが蘇ってくる。