サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

トウカイトリック

【2012年 ステイヤーズステークス】長距離戦に偉大な足跡を刻んだ伝説のトリックスター

 ロングディスタンスで燻し銀のような走りを見せたトウカイトリック。12歳になっても息長く現役を続行し、ラストランの万葉Sでも4着に健闘した。ディープインパクトと同じ2002年の生まれ。同期ではヴァーミリアン、カネヒキリに次ぐ4番目の獲得賞金を獲得している。

 NHKマイルC、ジャパンCを制しただけでなく、ヨーロッパ最高峰の凱旋門賞を2着したエルコンドルパサーが父。母ズーナクア(その父シルヴァーホーク)は米G1・オークリーフSなど重賞を3勝した。同馬の半妹にレオパステル(5勝)がいる。

 2歳8月、小倉(芝1800m)で新馬勝ち。ステイヤーらしく、じわじわと力を付けていく。こけもも賞、京橋特別と連勝したうえ、3歳秋には比叡Sを勝ち上がり、福島記念で2着に食い込んだ。

 4歳時のダイアモンドSは3着。阪神大賞典でも、ディープインパクトの2着に逃げ粘った。アルゼンチン共和国杯(5着)、ステイヤーズS(2着)と前進。5歳緒戦の万葉Sはハナ差の2着に惜敗したが、タイトル奪取は時間の問題といえた。

 1番人気(単勝2・9倍)を背負い、ダイヤモンドSへ。直線までは後方の内目でマイペースを貫いていたが、目を見張る末脚が炸裂する。きっちり差し切り、栄光のゴールを駆け抜けた。

 同年の阪神大賞典はアタマ+クビ差の3着。天皇賞・春でもハナ+クビ差の3着に健闘する。相変わらず勝ち切れない悩みが付きまとったが、6歳緒戦の万葉Sに辛勝。それでも同馬の道程は、まだまだ半ばにあった。

 松元省一調教師の勇退に伴い、3度目の阪神大賞典(4着)以降は野中賢二厩舎の所属となった。開業と同時に移籍し、ともに歩んできた実力派に対するトレーナーの愛着は格別のものがある。

「オープン馬はそれぞれ個性が強いものですが、とても乗りやすいタイプ。ただ、持てる力を出させるためには、普段からしっかり全身を使わせる必要があり、バトンを受けた当初は自ら乗って追い込みすぎた反省がありますね。付き合いが長くなり、信頼関係が深まるにつれ、だんだん適切な調整方法がつかめてきました」

 休ませるべきときはしっかり英気を養わせ、大切に素質を磨かれる。阪神大賞典(5着)よりスタートさせた7歳シーズンは未勝利に終わったが、地道な努力がみごとに花開くときが翌年に到来。阪神大賞典では、厩舎にとって初の重賞制覇が成し遂げられた。

「ぐっと落ち着きが出ましたし、スリムなボディーながらも筋肉の備わり方など、フィジカル面も進歩。過去を振り返っても、あのころは最高の状態に思えましたよ。だから、天皇賞・春(大きな不利を受けて9着)の後は、以前から構想にあったオーストラリア遠征に踏み切ったんです。コーフィールドC(12着)、メルボルンC(12着)と結果が出なかったのですが、貴重な経験を積むことができました。あの馬がいたからこそ、教えられたことがたくさんあります。それを将来につなげていかないと」

 いったん崩れたリズムを取り戻せず、スランプに陥った。しかし、ステイヤーズSでは年齢を感じさせない秀逸なパフォーマンスを披露する。ゆったりしたペースのなか、道中は最内の7番手で脚を温存。ペースが上がった2周目の3コーナーから追い通しとなったが、メンバー中で最速となる末脚(3ハロン36秒5)を駆使し、ラストでぐいと抜け出した。2年9か月ぶりの貴重な勝利。手綱を取った北村宏司騎手は、こう驚きの表情を浮かべる。

「10歳とはいえ、まだまだやれますね。早めにスパートしても、簡単には止まらない。長丁場を何度も走っているだけに、自分のペースを乱しません」

 11歳時は阪神大賞典(5着)、そして、天皇賞・春(11着)と歩む。いずれも8度目の参戦であり、同一の重賞への最多出走と最多連続出走の記録を更新した。7回目のチャレンジとなったステイヤーズSも3着し、実力を誇示している。

 全63戦(9勝)。生涯で走破した距離を合計すると175・1キロメーターにもなる。偉大な記録は、今後も破られないだろう。引退後は京都競馬場の誘導馬に転身したものの、重度の骨折を発症。あっけなく天国へ旅立ってしまったとはいえ、陣営に手厚くケアされ、多くのファンに愛され、幸せな一生だったに違いない。