サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ドレッドノータス
【2019年 京都大賞典】破格のスケールを垣間見せた荒々しいダイナソー
キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを11馬身もの大差を付けてレコード勝ちしたハービンジャー。成長力に富む重厚な遺伝子だけに、種牡馬としても成功を収め、ディアドラ(秋華賞、ナッソーS)、ペルシアンナイト(マイルCS)、モズカッチャン(エリザベス女王杯)、ブラストワンピース(有馬記念)、ノームコア(ヴィクトリアマイル、香港C)ら大物を送り出した。G1には手が届かなかったとはいえ、忘れられない一頭にドレッドノータスがいる。
母ディアデラノビア(その父サンデーサイレンス)はフローラSをはじめ、重賞を3勝。G1での3着も3回ある。ドレッドノータスの姉兄にディアデラマドレ(府中牝馬Sなど重賞3勝)、ディアデルレイ (マーチS2着)、サンマルティン(小倉記念2着)。祖母のポトリザリスがアルゼンチンダービー、同オークスを制した名牝系である。
「1歳で出会ったころは、そう垢抜けた印象を受けなかったのですが、さすがに一流の血統です。ノーザンファーム空港で順調に乗り込まれ、だんだん秘めた素質が前面に出るように。2歳9月に入厩した時点でも、無理なく動けましたね。1週前の3頭併せで別の馬に乗っていた武豊騎手が『あの馬は走ってくる』と。母ともコンビを組んでいましたので、すんなり鞍上も決まりました」
と、矢作芳人調教師は若駒当時を振り返る。
翌月の京都(芝2000m)でデビュー。楽に先手を奪い、逃げ切り勝ちを収める。トレーナーもポテンシャルに自信を深める一方だったという。
「最後に詰め寄られたのは、抜け出して遊んだためです。余力は残っていましたね。まだまだ気性面は子供っぽく、追い詰めないように配慮。しっかり攻めれば細化する心配もありましたので、余裕残しで送り出したんです。調教の感触では力の要る条件のほうが合いそうに想像していたなか、高速馬場でも4コーナーからすっと速い脚を使えたのに驚きましたよ」
京都2歳Sであっさりと重賞を奪取。早くもクラシック候補に踊り出た。着差はアタマでも、2番手で流れに乗れたうえ、追われても渋太く伸びる好内容である。ドレッドノータス(地球史上で最大の陸上生物とされる恐竜)との名にふさわしく、破格のスケールを垣間見せた。
「使われて順当に良化し、仕上がりとしても十分といえましたが、まだまだ体力が付き切っていない状況。それでも勝ててしまった。ただし、課題は2コーナーまで力みがちになるところでした。丁寧に折り合いを教えていく必要を感じましたね」
そんな懸念材料が表面化し、レースを重ねるにつれ、イレ込みがきつくなっていく。スプリングS(7着)、皐月賞(15着)と不完全燃焼。秋シーズンはアンドロメダSを2着したとはいえ、ベテルギウスS(10着)、中山金杯(10着)と敗退したところで去勢手術が施された。
稲村ケ崎特別を勝ち上がり、軌道に乗るかと期待されながら、レインボーSを勝利してオープンへ返り咲くのに10戦を要する。ただし、アンドロメダSも連勝。決して早熟ではないことをアピールした。
その後に7連敗を喫しながらも、徐々に成績は安定していった。6歳秋の京都大賞典は好位をロスなく立ち回り、あっさり抜け出す。ついに2つ目のタイトルに手が届いた。11番人気(単勝90・7倍)の低評価を覆す痛快な一撃である。マックスのパワーを引き出したのが坂井瑠星騎手。こう喜びを噛みしめた。
「イメージ通りに運べました。師匠である矢作先生に重賞をプレゼントできたのが、なによりもうれしいですよ」
天皇賞・秋(16着)を経て、7歳シーズンも3戦を消化する。しかし、放牧先のノーザンファームしがらきで疝痛を発症。急逝したのが残念でならない。きっと天国から一族の繁栄を後押ししているに違いない。