サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アンビシャス

【2015年 ラジオNIKKEI賞】大志を抱いて育んだ秀逸な才能

 5歳時の安田記念(15着)が国内でのラストランとなったアンビシャス。管理した音無秀孝調教師は、若駒当時より大きな希望を託していたと振り返る。
「産まれた直後に見ても、ディープらしい軽さが伝わってきた。小ぶりだったが、順調に育ったしね。それでも、2歳の9月に入厩したころは頼りなさが目立った。だから、レース数を絞り、余裕を持たせたローテーションを守ってきたんだ」

 日本競馬の至宝であり、史上最速のスピードで勝ち鞍を積み重ねたディープインパクトが父。母カーニバルソング(その父エルコンドルパサー)は1勝のみに終わったが、同馬の半兄にあたるプロフェッサー(2勝)など、産駒は堅実に走っている。祖母の全弟に愛G3・ガリニュールSに勝ったエグゾルティション。独ダービー馬のバズワードも近親に名を連ねるファミリーだ。

 晩成と思わながら、早くから確かな資質を示す。新馬(京都の芝1600m)、千両賞と連勝。共同通信杯でも、後にG1ウイナーとなるリアルスティール、ドゥラメンテに続く3着を確保した。毎日杯(3着)を経て、プリンシパルSに優勝。優先権を得ながら、ダービーに参戦しなかったのは、適性だけでなく、将来を見据えてのこと。ラジオNIKKEI賞に駒を進める。

 トップハンデ(56・5キロ)を課せられたうえ、スタートで接触する不利を受けたが、中団のインを手応え良く追走。先行勢が有利な展開となったなか、ロスなく馬群をさばき、直線一気に突き抜ける。後続に3馬身半差を付ける完勝だった。

「3歳秋は毎日王冠(出遅れて6着)、天皇賞・秋(折り合いを欠き5着)とも結果が出なかったが、敗因は明らかだった。使うごとに中身がしっかりしつつあり、苦い経験もいずれプラスに生かせると見ていたよ。引っかかってしまい、乗り難しいのが悩み。ジョッキーを選ぶ面があってね。クリストフ・ルメール騎手なら、新馬、プリンシパルS、ラジオNIKKEI賞と3勝。4歳時の中山記念(2着)も、ドゥラメンテをクビ差まで追い詰めていて、持ち前の瞬発力を発揮できる。我慢を教えてくれた成果で、根性も備わってきた」

 大阪杯はキタサンブラックをはじめ、5頭のG1ウイナーが集結する豪華メンバー。ここでベストパフォーマンスを演じ、後続の追撃を完封した。

「あの乗り方をしないと勝てない流れ。横山典弘騎手から受けた提案がはまり、すべてがうまくいったよ。これまでと一転した2番手のポジション取りでも、しっかり脚がたまったからね。ただ、宝塚記念(16着)にはつながらなかった。馬場状態や距離延長といった条件以前に、出していったら、1コーナーからハミを噛んでしまって。もう一度、脚をためるかたちにレースを組み立て直したかった」

 惜しくも3つ目のタイトルを手にできなかったとはいえ、以降もラストの瞬発力は目を見張るものがあった。C・ルメール騎手に導かれ、毎日王冠はクビ差の2着。出遅れながら、天皇賞・秋では4着まで脚を伸ばす。翌春の中山記念を4着、大阪杯に5着と存在感を示した。

 オーストラリアに移籍後は11戦未勝利に終わったとはいえ、異国に渡っても大志を抱き続けたアンビシャス。G1のATCHEタンクレドSを2着、BRCドゥームベンCでも3着に健闘した。父譲りのインパクトを海外でも放った貴重な一頭である。