サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ドリームバレンチノ

【2013年 兵庫ゴールドドロフィー】いつまでも若々しいスプリント界のファイター

 10歳12月の兵庫ゴールドT(6着)まで55戦(12勝)を消化し、4割以上の連対率を誇ったドリームバレンチノ。ドバイワールドCの覇者であるロージズインメイの産駒だが、同馬の魅力は、新馬勝ちした翌週、小倉2歳Sを制するという離れ業を演じた母コスモヴァレンチ(その父マイネルラヴ)譲りのスピードだった。

 ドリームバレンチノの全弟にあたるウインムート(兵庫ゴールドT、さきたま杯など10勝)も手がけた加用正調教師にとって、コスモヴァレンチとの出会いはかけがいのないもの。当初はコスモバルクに続いてホッカイドウ競馬でデビューさせ、JRAの大舞台を目指す予定の母だったが、2歳時にビッグレッドファーム明和で目にしたトレーナーが惚れ込み、預託を打診した過去がある。

「ヴァレンチは骨折に泣き、3戦のみで引退。底知れないポテンシャルの持ち主だった。手元にいる時間は短かったけど、思い入れが深い繁殖。待望の初仔に賭ける気持ちは強かったね。当歳時よりヴァレンチによく似た好馬体をしていたし、ウインムートや全妹(函館2歳Sを2着したマイネショコラーデ)を見ても、父との配合が合うんだろう」

 2歳10月の京都で迎えたデビュー戦(芝1200mを7着)はスタートで後手を踏んだドリームバレンチノだったが、2戦目の京都(芝1400m)をあっさり逃げ切り勝ち。ただし、3歳時は体質の繊細が目立ち、昇級後は5連敗を喫する。

「コスモヴューファームの育成時はゲートで暴れたりする幼さが目立った。もともと早熟とは思っていなかったよ。能力に体が付いてこない状況。だから、リフレッシュを挟みながら大切に使ってきたんだ」

 右肩の跛行による出走取り消しを経て、別府特別で2勝目をつかむ。このころになるとコンディションはすっかり安定。脚質の幅も広がる。雲仙特別では1000万下を卒業。薩摩Sでの準オープン勝ちまで、階段を登るように前進した。

「デビュー時に460キロだった体重が490キロに。キャリアを積みながら、たくましさを増しているのがうれしかった」

 京王杯スプリングC(7着)では勝ち馬に次ぐ上がり(33秒2)をマークした。桂川Sは4着だったとはいえ、コンマ1秒差。みちのくSをあっさり抜け出す。出遅れなければと悔まれる惜敗だったラピスラズリS(4着)、コース取りが響いて届かなかったアンコールS(2着)、前が止らない流れの淀短距離S(3着)と、いずれも敗因ははっきりしていた。福島民友Cを鋭く差し切り、安土城Sも完勝。いよいよ重賞制覇が視界に入ってきた。

「しばらくは運に恵まれず、リズムに乗れなかっただけ。ますます充実していたし、パワーも兼備した個性。暑さは避けたかったし、洋芝が合うと見て、函館スプリントSに照準を定めたんだ」

 出遅れる不利がありながら、外を回って中団に取り付き、余裕の手応えで直線へ。ラスト1ハロンで先頭に躍り出ると、断然人気に推されたロードカナロア(後にG1を6勝)の強襲を粘り強く退けた。

 母のイメージに反し、奥が深かったドリームバレンチノ。スプリント界の高級ブランドとして、ますます評価を高めていく。5歳秋はスプリンターズSを3着。シルクロードSで2つ目のタイトルを奪取し、高松宮記念も2着に食い下がった。

「もともとダートも走れると見ていたが、いきなりJBCスプリントを2着。ぐんと守備範囲が広がったよ」

 兵庫ゴールドTに順当勝ち。ついに砂戦線でもタイトルを奪取する。前半は中団に控えていたが、園田の小回りコースを意識して3コーナー手前から一気に進出。後続に4馬身も差を広げる圧勝だった。

「この路線なら、高齢になっても活躍が可能。それにしても、若々しい闘志が衰えず、常に一所懸命だった。ほんと頭が下がる」

 7歳時も黒船賞、東京盃と連続して2着を確保したうえ、JBCスプリントを堂々と勝ち切り、G1の勲章を手にした。9歳になっても、東京盃で2馬身差の完勝。味わい深い競走生活だった。

 アロースタッドで種牡馬入り。産駒は希少だが、父の名を高める逸材の登場を期待したい。